「入院の給付金は、どう請求すればいいですか」「解約すると、いくら戻りますか」。保険のコールセンターには、毎日、こうした問い合わせが届きます。
答えは、約款、ご契約のしおり、手続きの手引き、社内の回答例など、いくつもの文書に分かれています。商品や発売の時期によって、見るべき版も違います。担当者は、お客様を待たせながら、正しい箇所を探すことになります。
お客様の不満は、どこに多いですか
生命保険協会の生命保険相談所には、令和6年度に 3,981件の苦情が寄せられました。いちばん多い分野は「保険金・給付金関係」です。
| 分野 | 件数 | 占率 |
|---|---|---|
| 保険金・給付金関係 | 1,380件 | 34.7% |
| 新契約関係 | 1,068件 | 26.8% |
| 保全関係(契約内容の変更、解約など) | 892件 | 22.4% |
| その他 | 471件 | 11.8% |
| 収納関係(保険料の払い込みなど) | 170件 | 4.3% |
内容ごとに見ると、第1位は「入院等給付金不支払決定」(17.7%)、第2位は「説明不十分」(12.5%)、第3位は「解約手続」(7.6%)でした。解約手続については、手続きの遅れや誤りのほか、手続きの書類や方法についての申し出が多い、と報告されています。
どれも、問い合わせの電話で、正しい情報をすぐに伝えられるかどうかに関わる内容です。なお、この数字は相談所に寄せられた苦情で、各社の窓口に届いたものすべてではありません。
答えが、いくつもの文書に分かれていると
- 1どの文書か分からない約款、しおり、手引き、回答例のどれに書いてあるか、探すところから始まる
- 2どの版か分からない契約した時期の版と、今の版とで、内容が違うことがある
- 3探すあいだ、待たせる保留の時間が延び、ほかのお客様の電話もつながりにくくなる
- 4直したことが届かない手引きを改訂しても、古い写しが手元に残る
当社による整理です。
Web で自分で調べられるようにすれば、電話は減りますか
減るとは限りません。Kumar と Telang の研究(2012年)は、米国の健康保険会社 1社のコールセンターを調べました。Web の自己解決の仕組みを使った顧客からの電話は、14% 増えました。
一方で、あいまいでなく、Web で取り出しやすい情報についての電話は、29% 減りました。増えたのは、あいまいな情報についての電話です。著者は、Web が見せる大量の情報が、かえって不確かさを生むことがある、と説明しています。
情報を置くだけでなく、問いに対して、はっきりした答えの箇所を示せるかどうかが分かれ目になります。くわしくは「サポートの窓口に、同じ質問が何度も届くのはなぜですか」で紹介しています。
AI で担当者を支えると、どうなりますか
Brynjolfsson ほかの研究(2025年)は、サポートの担当者 5,172人を対象に、生成 AI が会話の中で答えの案を示す道具を調べました。1時間に解決する件数は、平均で 15% 増えました。
伸びが大きかったのは、経験が浅く技能の低い担当者です。経験が最も長く技能の高い担当者は、速さの伸びが小さく、質がわずかに下がりました。新しく入った担当者が、早く一人で答えられるようになる助けになる、と考えられます。
ただし、保険の回答では、AI の答えが、どの約款や手引きの、どの箇所にもとづくのかを確かめられることが欠かせません。根拠の箇所が古い版だったり、別の商品のものだったりすれば、答えも誤ります。くわしくは「AI の回答を、業務で信用できるようにするには」をご覧ください。
どう整えれば、正しい箇所にたどり着けますか
- 問い合わせを受ける内容を、ふだんの言葉で入力する
- 商品と版で絞るお客様の契約に合う文書だけを見る
- 該当の箇所を示す担当者も AI も、同じ箇所をもとに答える
- 答えのない質問を残す手引きに無い質問を、記録で見つける
- 手引きを直す直した内容が、次の問い合わせから使われる
当社による整理です。
- 文書をひとつの場所に集める:約款、しおり、手続きの手引き、回答例を、ばらばらの共有フォルダーに置かない。
- 版の情報を付ける:どの商品の、いつからの版かを、文書に付けたまま扱う。
- 見られる人を分ける:社員向け、代理店向け、お客様向けで、見せる文書を分ける。
- 答えのなかった質問を見る:手引きを直すきっかけにする。
Fluid Topics では、どうなっていますか
Fluid Topics は、Word、PDF、DITA などの文書をひとつに集め、表や手順の番号を残したまま、人と AI が必要な箇所を取り出せるようにするコンテンツ基盤です。版などの情報を文書に付けたまま取り込み、絞り込んで探せます。ふだんの言葉で質問して探すこともできます。
- 回答の手引き:問い合わせへの回答の手引きを扱い、担当者は内容を文章で入力して、該当する手順を探せます。
- AI に渡す:社内で作ったチャットやエージェントが、質問に合う箇所を Fluid Topics から受け取ります。AI モデルは、お客様が選びます。
- 閲覧の権限:企業が決めたアクセス制御を検索の結果に適用し、利用者は閲覧を許可された情報だけを見ます。
- 記録を見る:どの文書が読まれ、どの質問に答えがなかったかを見ます。
手続きの変更を担当者に周知するときは、hihaho で、確認の問いと一緒に動画を届け、どの問いに何人が正しく答えたかを記録で確かめる方法もあります。
始める前に、確かめること
- 問い合わせの記録や通話の内容には、個人情報が含まれます。AI に渡す範囲、保管の場所、委託先の扱いを、個人情報保護法と社内の規程に沿って確かめます。
- Fluid Topics で使う LLM は、利用する企業が選びます。選んだ LLM でのデータの扱いは、その LLM の提供元のプライバシーポリシーで確かめます。
- 元の文書に、商品や版の情報が付いていない場合は、取り込みのときに付ける作業が要ります。
このコラムで言えないこと
- 相談所の統計は生命保険についてのもので、損害保険の窓口に、そのまま当てはまるとは言えません。
- Kumar と Telang の研究、Brynjolfsson ほかの研究は、どちらも 1社のデータです。日本の保険会社で同じ結果になるとは言い切れません。
- Fluid Topics を使えば、回答の誤りが無くなる、とは言えません。もとの文書の正しさと、版の管理が前提です。
一緒に、整え方を考えませんか
担当者がすばやく正しく答えられるかどうかは、手元の文書の整え方で大きく変わります。どの文書から、どの順に集めるか。お手元の約款や手引きをもとに、一緒に考えます。
関連するページ
- Fluid Topics:文書をひとつに集め、人と AI が必要な箇所を取り出せるようにするコンテンツ基盤
- サポートの窓口に、同じ質問が何度も届くのはなぜですか:自分で解決できる情報の整え方
- AI の回答を、業務で信用できるようにするには:誤り、古い情報、出典
出典
- 生命保険の苦情の件数と内容:生命保険協会 生命保険相談所「相談所リポート〈令和6年度版〉」(PDF)(別のタブで開きます)
- Web の自己解決と電話の件数の研究:Kumar, Telang「Does the Web Reduce Customer Service Cost? Empirical Evidence from a Call Center」Information Systems Research, 23(3), 721–737, 2012(別のタブで開きます)
- 生成 AI による担当者の支援の研究:Brynjolfsson, Li, Raymond「Generative AI at Work」The Quarterly Journal of Economics, 140(2), 889–942, 2025(公開版 arXiv:2304.11771 第2版)(別のタブで開きます)
- Fluid Topics の検索と閲覧の権限:Fluid Topics: AI Search(別のタブで開きます)
- Fluid Topics の LLM とデータの扱い:Fluid Topics: Security & Trust(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1生命保険相談所に寄せられた令和6年度の苦情で、いちばん多い分野はどれですか。
保険金・給付金関係が 1,380件(34.7%)で、いちばん多い分野でした。
問い 2米国の健康保険会社のコールセンターの研究(2012年)で、Web の自己解決の仕組みを使った顧客の電話はどうなりましたか。
全体では 14% 増えた一方で、あいまいでなく取り出しやすい情報についての電話は 29% 減りました。
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