サポートの窓口に同じ質問が何度も届くのは、答えが無いからとは限りません。答えがあっても、取り出しにくい、内容があいまい、応対で得た知識が記録に残らない、という場合があります。米国の健康保険会社のコールセンターの研究では、Web の自己解決の仕組みを使った顧客からの電話は全体では増え、あいまいでなく取り出しやすい情報についての電話は減りました。
窓口と現場では、いま何が起きていますか
厚生労働省の能力開発基本調査では、技能継承の取り組み(複数回答)は、「中途採用を増やしている」が 56.2%、退職予定者の技能やノウハウの文書化、データベース化、マニュアル化が 22.0% でした。同省の実態調査では、顧客等からの著しい迷惑行為への対応のマニュアルの作成や研修をしている企業は 13.7% でした。
| 調査 | 対象と時期 | 結果 |
|---|---|---|
| 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」 | 調査対象 7,194事業所(有効回答率 54.2%)。2025年10月1日時点 | 技能継承に問題がある事業所は 44.2%。製造業は 65.8% |
| 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査 | 従業員 30人以上の製造業で、技能継承が必要と考える 4,262社。2025年10月1日現在 | 継承がうまくいっている(「やや」を含む)は 33.3%。技能の見える化の取り組みは 31.2% |
| 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」 | 従業員 30人以上の企業・団体。有効回答 7,780件。2023年12月 | 過去 3年間に、顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は 27.9% |
苦情対応とコンタクトセンターの規格、法令は、何を定めていますか
苦情対応の規格(ISO 10002:2018)は指針で、コンタクトセンターの規格(ISO 18295-1:2017)は要求事項です。法令は、カスタマーハラスメントへの事業主の措置を定めています。
ISO 10002 は、苦情を申し出る人にとって使いやすい手続きと、苦情の分析を製品とサービスの改善に生かすことを扱います。同じ内容の JIS Q 10002:2019 は、運用の箇条を 9つに分けています。
- 1受け付けるコミュニケーション、苦情の受理、追跡、受理通知
- 2調べる苦情の初期評価、苦情の調査
- 3答える苦情への対応、決定事項の伝達
- 4終える苦情対応の終了
- 5改善に生かす苦情の分析及び評価、継続的改善など
JIS Q 10002:2019 の箇条 7(苦情対応プロセスの運用)と箇条 8(維持及び改善)の題をもとにした、当社による整理です。並びは箇条の順で、5つへのまとめ方と箱の題は、当社が付けました。緑の枠は、箇条 8 の題です。
ISO 18295-1 は、コンタクトセンターを自社で運営する場合にも、委託する場合にも適用されます。2026年10月時点で、ISO は、この規格を改訂する段階と表示しています。
労働施策総合推進法の第33条1項は、顧客などの言動で労働者の就業環境が害されないよう、相談に応じる体制の整備などの措置を、事業主が講じなければならないと定めています。カスタマーハラスメントについての定めで、施行は 2026年10月1日です。厚生労働省の指針は、苦情のすべてがカスタマーハラスメントに当たるわけではなく、社会通念上許される範囲の申し入れは正当、としています。
自己解決の情報を置くと、問い合わせは減りますか
問い合わせは、減るとは限りません。Kumar と Telang の研究(2012年)では、米国の健康保険会社 1社のコールセンターで、Web の自己解決の仕組みを使った顧客からの電話が 14% 増えました。あいまいでなく、Web で取り出しやすい情報についての電話は 29% 減り、あいまいな情報については増えました。著者は、Web が見せる大量の情報が不確かさを生むことがある、と説明しています。
Retana ほかの研究(2016年)では、クラウド基盤サービスの大手 1社が、2011年に、使い始めた 2,673 の顧客のうち 366 に、基本の使い方を先に案内しました。案内を受けた顧客は、受けなかった顧客より、最初の 1週間の質問が 19.55% 少なく、同じ 1週間に離れる顧客は半分でした。効果は 1週間のうちに薄れました。
お客様の手間、AI の支援、チャットボットについて、研究は何を示していますか
お客様の手間を尋ねる指標の CES(Customer Effort Score)は、2015年の学術研究で、継続を予測する力が、調べた指標のなかで最も弱い結果でした。AI の支援とチャットボットの結果は、担当者の経験と、顧客の状態で分かれました。
Dixon ほかが 2010年に Harvard Business Review で発表した論文は、CES を示し、顧客満足度などよりも再購入と支出の増加をよく予測する、と述べました。
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| de Haan ほか(2015年) | オランダの 18業種、93社。6,649人の回答(2010年9月) | 継続の予測は、CES が最も弱く、顧客満足度の上位 2段階の割合が最もよい |
| Brynjolfsson ほか(2025年。数字は公開版の要旨) | サポートの担当者 5,172人。生成 AI による会話の支援 | 1時間に解決する件数が、平均で 15% 増えた |
| Crolic ほか(2022年) | 通信会社の実際のデータの分析 1つと、実験 4つ | 怒った状態の顧客は、人に似せたチャットボットで満足度が下がった。怒っていない顧客は下がらなかった |
Brynjolfsson ほかの研究では、経験が浅く技能の低い担当者は、速さも質も伸びました。経験が最も長く技能の高い担当者は、速さの伸びが小さく、質がわずかに下がりました。
応対のなかで得た知識は、どう残しますか
KCS(Knowledge-Centered Success)の手引きは、知識を、その場で、依頼した人の状況に沿って記録することを勧めています。後からでは、解決の方法を見つけにくく、つくり直しにくいためです。
KCS は、仕事の流れのなかで、知識を再利用し、直し、無ければその場でつくって、探す人に届くようにする方法論です。非営利の団体 Consortium for Service Innovation が維持し、8つの実践を、解決の輪と進化の輪に分けています。
解決の輪(Solve Loop)
仕事の流れのなかで
今ある知識を使い、正確で使える状態に保つ
- Reuse(再利用)
- Improve(改善)
- Capture(記録)
- Structure(構造化)
進化の輪(Evolve Loop)
振り返って学ぶ
解決の輪の活動を定め、振り返り、学ぶ
- Content Health
- Process Integration
- Performance Insight
- Change Management
Consortium for Service Innovation の手引きをもとに、当社が作成しました。KCS は、同団体のサービスマークです。かっこの中の日本語は、当社の訳です。
自分の職場で確かめること
- 公開している説明のうち、あいまいなもの、Web で取り出しにくいものは、どれですか。
- 応対で分かった解決の方法を、その場で、お客様の状況と一緒に記録していますか。
- 新しいお客様に、基本の使い方を、質問が届く前に案内していますか。
- 退職する予定の人の手順やノウハウのうち、文書になっているものは、どれですか。
当社が扱う製品では、どうなっていますか
ここからは、当社が扱う製品の説明です。Fluid Topics(技術文書のコンテンツ基盤)は、サポートと保守で、次のように使えます。
| サポートマニュアル | 不具合の対処手順や、問い合わせへの回答の手引きを扱います。担当者は、症状を文章で入力して、該当する手順を探せます。 |
|---|---|
| サービスマニュアル | 点検、修理、部品交換の手順を扱います。機種と版で絞り込めます。 |
| AI チャット・エージェント | 社内で作ったチャットやエージェントが、質問に合う箇所を Fluid Topics から受け取ります。AI モデルは、お客様が選びます。 |
| 記録を見る | どの文書が読まれ、どの質問に答えがなかったかを見ます。 |
hihaho(インタラクティブ動画)では、手順の変更を、確認の問いと一緒に届けられます。動画は QR コードやメールで届け、どの問いに何人が正しく答えたかを、記録で確かめられます。
Fluid Topics は、文書を書くための製品ではありません。製品が決まっていなくても、いまの状況と課題から相談できます。お問い合わせのページで、状況をお知らせください。
言い切れないことは、何ですか
- Kumar と Telang の研究は 1社の結果で、ほかの業種で同じ結果になるとは言い切れません。
- CES が継続を予測する、とも、予測しない、とも言い切れません。de Haan ほかの研究は、継続が本人の申告で、回答者はオランダの人だけでした。
- Retana ほかの実験は、動画や文書による案内の効果を調べたものではありません。
- Brynjolfsson ほかの研究は、担当者に答えの案を示す道具の、1社のデータです。Crolic ほかの研究は、チャットボットを使うこと自体の良し悪しを示すものではありません。
- 技能継承の調査は、保守やサポートの部門だけの数字ではありません。
紹介した研究は、当社が扱う製品の効果を測ったものではありません。
関連するページ
- Fluid Topics:技術文書を集め、Web のポータルや AI に届けるコンテンツ基盤
- hihaho:動画の途中に問いや分かれ道を入れ、答えと視聴の記録を残せるインタラクティブ動画
- コラム「AI の回答を、業務で信用できるようにするには、何が要りますか」:誤り、古い情報、出典、アクセス権の懸念と、文書の側の準備
- 用語集:採用、営業、サポートなどの業務の用語を、業界と業務で絞り込める一覧
出典
- 苦情対応の指針:ISO: ISO 10002:2018 Quality management — Customer satisfaction — Guidelines for complaints handling in organizations(別のタブで開きます)
- 苦情対応の指針(日本産業規格)の箇条:日本規格協会: JIS Q 10002:2019 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針(プレビュー、PDF)(別のタブで開きます)
- コンタクトセンターの要求事項:ISO: ISO 18295-1:2017 Customer contact centres — Part 1: Requirements for customer contact centres(別のタブで開きます)
- KCS の考え方と名前:Consortium for Service Innovation: Knowledge-Centered Success: Practices Guide(別のタブで開きます)
- KCS の解決の輪:Consortium for Service Innovation: Knowledge-Centered Success Practices Guide — Solve Loop(別のタブで開きます)
- KCS の進化の輪:Consortium for Service Innovation: Knowledge-Centered Success Practices Guide — Evolve Loop(別のタブで開きます)
- Web の自己解決と電話の件数の研究:Kumar, Telang「Does the Web Reduce Customer Service Cost? Empirical Evidence from a Call Center」Information Systems Research, 23(3), 721–737, 2012(別のタブで開きます)
- 先に案内することの実験:Retana, Forman, Wu「Proactive Customer Education, Customer Retention, and Demand for Technology Support: Evidence from a Field Experiment」Manufacturing & Service Operations Management, 18(1), 34–50, 2016(別のタブで開きます)
- CES のもとの論文の主張と、指標と継続の検証:de Haan, Verhoef, Wiesel「The predictive ability of different customer feedback metrics for retention」International Journal of Research in Marketing, 32(2), 195–206, 2015(フローニンゲン大学のリポジトリ、掲載前の版、PDF)(別のタブで開きます)
- 生成 AI による担当者の支援の研究:Brynjolfsson, Li, Raymond「Generative AI at Work」The Quarterly Journal of Economics, 140(2), 889–942, 2025(公開版 arXiv:2304.11771 第2版)(別のタブで開きます)
- 人に似せたチャットボットと怒りの研究:Crolic, Thomaz, Hadi, Stephen「Blame the Bot: Anthropomorphism and Anger in Customer–Chatbot Interactions」Journal of Marketing, 86(1), 132–148, 2022(別のタブで開きます)
- カスタマーハラスメントの措置の条文:e-Gov 法令検索: 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(第33条)(別のタブで開きます)
- 改正法の公布と施行の日:厚生労働省: 職場におけるハラスメントの防止のために(別のタブで開きます)
- カスタマーハラスメントの指針:厚生労働省: 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号、PDF)(別のタブで開きます)
- 顧客等からの著しい迷惑行為の調査:厚生労働省: 令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(2024年5月17日 公表、PDF)(別のタブで開きます)
- 技能継承の統計(全産業の事業所):厚生労働省: 令和7年度 能力開発基本調査 結果の概要(2026年7月31日 公表、PDF)(別のタブで開きます)
- 技能継承の調査(製造業の企業):労働政策研究・研修機構(JILPT): ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査(記者発表 2026年5月27日、PDF)(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1Web の自己解決の仕組みと電話の件数について、この記事で紹介した研究の結果に合うものは、どれですか。
Kumar と Telang の研究(2012年)では、自己解決の仕組みを使った顧客からの電話は 14% 増えました。あいまいでなく、Web で取り出しやすい情報についての電話は 29% 減りました。
問い 2応対で得た知識の記録について、KCS の手引きが勧めていることは、どれですか。
KCS の手引きは、知識を、その場で、依頼した人の状況に沿って記録することを勧めています。後からでは、解決の方法を見つけにくく、つくり直しにくいためです。
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