PDF のマニュアルをそのまま RAG に入れると、取り込み方によっては、見出しや表の構造が失われたり、図の内容が取り込まれなかったりして、答えが不正確になることがあります。RAG(Retrieval-Augmented Generation。検索拡張生成)は、社内の文書などから、質問に関係する部分を検索で探し、AI に渡して答えを作らせる方法です。
- 質問
- 検索質問に関係する文書の一部を探す
- 生成見つけた部分を AI に渡し、答えを作らせる
- 答え
文書の作りは、「検索」で何が見つかるかに関わります。
PDF のまま入れると、何が起きますか
一般的な OCR で文字を取り出すと、文書は平らな文字列になり、見出し、表、箇条書きの構造が失われます(Google Cloud)。文字だけを出力する解析は、図、グラフ、表、画像を含む文書には向きません(AWS)。Microsoft、AWS、Google の公式の文書と、公開されている研究は、ほかに次の点を挙げています。
- 目次、ヘッダー、フッター、著作権表示は、意味を足さないことがあります。分ける前に、除くかどうかを決めます(Microsoft)。
- 複数のページにまたがる表は、2つの表に分かれることがあります(Google Cloud)。
- ページの境目をまたぐ読み順を、扱わない解析サービスもあります(Microsoft)。
- 大きすぎるかたまりには関係のない情報が入り、小さすぎるかたまりは意味のまとまりを欠きます(Wang ほか、2025年)。
- 意味での検索は、言葉が一致しなくても、近い内容を探せます。型番、専門性の高い用語、日付、人名を探すときは、キーワード検索のほうが向いています(Microsoft)。
- 長い文脈の中ほどに必要な情報があると、AI の成績が大きく下がるという研究があります(Liu ほか、2024年)。
場面 1
文書を取り込むとき
- 目次、ヘッダー、フッターを、除くかどうか決める
- 文字だけを出力する解析は、図や表のある文書に向かない
- 一般的な OCR では、見出し、表、箇条書きの構造が失われる
- ページをまたぐ表が、2つに分かれることがある
場面 2
かたまりに分けるとき
- 大きすぎると関係のない情報が入り、小さすぎると意味のまとまりを欠く
場面 3
探して、AI に渡すとき
- 意味での検索は、言葉が一致しなくても探せる
- 型番や専門性の高い用語は、キーワード検索が向く
- 長い文脈の中ほどに必要な情報があると、AI の成績が下がる
Microsoft、AWS、Google の公式の文書と、2つの論文によります。場面の分け方は、当社による整理です。
文書の分け方で、精度は変わりますか
変わる、という研究があります。「Document Segmentation Matters for Retrieval-Augmented Generation」(Wang ほか、Findings of ACL 2025)(別のタブで開きます)は、決まった規則で分ける方法や、LLM に分けさせる方法と、著者らの方法を比べ、分け方によって、検索の精度と回答の精度が変わることを示しました。英語の質問応答のデータでの実験で、技術マニュアルで確かめたものではありません。
RAG を自社で組むときは、何を決めますか
Microsoft の設計の手引きは、RAG の設計を、次の6つの段階に分けています。
- 1準備
- 2分割
- 3補強
- 4埋め込み
- 5検索
- 6評価
- 準備:扱う文書と、試験に使う質問を決める。
- 分割:文書を、検索の単位になるかたまりに分ける。
- 補強:かたまりに、題名や要約などの情報を足す。
- 埋め込み:かたまりを、意味を表す数値に変える。
- 検索:質問に合うかたまりを探す方法を決める。
- 評価:検索と回答を、全体として評価する。
社内データを生成 AI に学習・参照させている企業は、どのくらいありますか
総務省の令和8年版 情報通信白書によると、「生成 AI に社内データを学習させたり、生成 AI が参照可能なデータベースを構築したりしている」と答えた割合は、日本で 24.5% でした。米国は 57.2%、ドイツは 54.4%、中国は 73.0% でした。
情報通信白書が載せているのは、2026年1月〜2月に行われた、インターネットでのアンケートの結果です。対象は、従業員 10名以上で、2025年までにデジタル化の取り組みを始めた企業に勤める、管理職以上の人です。日本の回答は 515件です。この設問だけの回答数は、白書の図表には示されていません。設問は、社内データの学習と、参照できるデータベースの構築を、1つにまとめて尋ねています。RAG だけの割合ではありません。
総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-5。2026年1月〜2月の調査です。棒の右端が 100% です。
マニュアルの側で、できることは何ですか
- 見出し、手順、警告、表の区別を残した形で、文書を渡す。
- 機種、版、言語の情報を、文書に付ける。
- 質問と正解の組を先に決め、直す前と後で、同じ質問で比べる。
関連するページ
- 製造業の方へ:技術文書を、AI の正しい情報源にする進め方
- Fluid Topics:技術文書を集め、人と AI に届けるコンテンツ基盤
- コラム「DITA とは何ですか」:技術文書を部品に分けて書く規格の解説
出典
- RAG という方法:Lewis ほか「Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks」NeurIPS 2020(別のタブで開きます)
- 除くかどうかを決める要素:Microsoft Learn: Develop a RAG Solution – Preparation Phase(2025年11月21日更新)(別のタブで開きます)
- 関係のない情報と、回答の正確さ:Microsoft Learn: Develop a RAG Solution – Chunking Phase(2026年6月18日更新)(別のタブで開きます)
- 図や表の解析:AWS: Parsing options for your data source(Amazon Bedrock User Guide)(別のタブで開きます)
- 文書の構造と、ページをまたぐ表:Google Cloud: Process documents with Gemini layout parser(2026年10月5日更新)(別のタブで開きます)
- ページをまたぐ読み順:Microsoft Learn: Document Intelligence APIs analyze document response(2026年4月30日更新)(別のタブで開きます)
- かたまりの大きさ、文書の分け方と精度:Wang ほか「Document Segmentation Matters for Retrieval-Augmented Generation」Findings of ACL 2025(別のタブで開きます)
- 意味での検索とキーワード検索:Microsoft Learn: Hybrid search – Azure AI Search(2026年8月31日更新)(別のタブで開きます)
- 長い文脈:Liu ほか「Lost in the Middle: How Language Models Use Long Contexts」TACL 12巻(2024年)(別のタブで開きます)
- 設計の6つの段階:Microsoft Learn: RAG solution design and evaluation guide(2026年6月30日)(別のタブで開きます)
- 社内データと生成 AI:総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅰ部 第2章 第1節(2026年7月24日公表)(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1PDF などの文書を RAG に入れたときに起きることとして、この記事で挙げたものはどれですか。
一般的な OCR で文字を取り出すと、文書は平らな文字列になり、見出し、表、箇条書きの構造が失われます。文字だけを出力する解析は、図や表を含む文書には向きません。
問い 2マニュアルの側でできることとして、この記事で挙げたものはどれですか。
この記事は、見出し、手順、警告、表の区別を残した形で文書を渡すこと、機種、版、言語の情報を付けること、同じ質問で直す前と後を比べることを挙げています。
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