2026年の日本の調査で、生成 AI を仕事で使うときの懸念として最も多く挙がった項目は、総務省の調査では情報の漏えいなどのセキュリティ、帝国データバンクの調査では情報の正確性でした。著作権などの権利や、人材と知識の不足も挙がっています。
公的な文書は、対処として、利用のルール、入力する情報の区分、人による確認、教育などを挙げています。このコラムは、2026年10月時点の内容の整理で、法的な助言ではありません。
調査では、どんな懸念が挙がっていますか
2026年の2つの調査で上位に挙がったのは、セキュリティ、出力の精度や情報の正確性、著作権などの権利、専門人材とノウハウの不足などです。対象と設問が違うので、順位や割合は、調査どうしで比べられません。
| 調査 | 時期 | 対象と回答数 | 上位に挙がった項目 |
|---|---|---|---|
| 総務省「令和8年版 情報通信白書」の企業向けアンケート | 2026年1月〜2月 | デジタル化の取組を始めた、従業員10名以上の企業の、管理職以上。日本の有効回答は 515 | 多い順に、セキュリティ、出力の精度、著作権などの権利 |
| 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」 | 2026年3月17日〜31日 | 全国の2万3,349社。有効回答は1万312社 | 情報の正確性 50.4%、専門人材・ノウハウ不足 41.3%、活用すべき業務の範囲 40.0% |
総務省の調査(別のタブで開きます)は、懸念されるリスクを尋ねています。帝国データバンクの調査は、懸念や課題を3つまで選ぶ設問で、「情報漏洩のリスク」は 33.5% で4番めでした。
IPA の「DX 動向 2026」(2026年7月30日 公開。調査の全体の有効回答は 1,799社)は、懸念ではなく、AI の導入と運用の課題を尋ねています。「専門人材が不足している」が 50.1% で、最も多く挙がりました。
IPA の「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日 公表)では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれ、組織向けの3位でした。約250名の選考会の投票で決めた順位です。
懸念は、仕事の流れのどこにありますか
調査に挙がった懸念は、入力した情報の扱い、回答の誤り、著作権などの権利、使う人の知識とルールの4つに分けられます。仕事の流れに沿った、当社による整理です。
- 1入力する機密の情報や個人データを入れてよいか
- 2提供元の AI が処理する入力が学習に使われるか、保存されるか
- 3出力を受け取る内容の誤り、既存の著作物との類似
- 4人が確かめる出力への頼りすぎ、知識とルールの不足
当社による整理です。緑の枠は、人の判断が入る段です。
米国の NIST の文書(NIST AI 600-1、2024年7月)は、生成 AI に特有の、または生成 AI で大きくなるリスクを、12個挙げています。Confabulation(誤った内容の出力)、Data Privacy、Information Security、Intellectual Property は、その一部です。
入力した情報は、どう扱われますか
- 分かっていること:入力した情報が、応答を返す以外の目的、たとえば AI の機械学習に使われるかどうかが、確かめる点です。扱いは、提供元、契約、設定で違います。学習に使うかどうかと、保存するかどうかは、別の点です。
- できること:個人情報保護委員会(別のタブで開きます)は、2023年6月2日に注意喚起を公表しました。事業者が本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力する場合に、提供者が機械学習に使わないことなどを、十分に確かめるよう求めています。デジタル庁の国の機関向けのガイドライン(DS-920、2026年6月12日 改定)は、不特定多数に提供され、約款や規約への同意だけで使えるクラウドサービス型の生成 AI では、原則として要機密情報を扱えないとしています。
提供元ごとの扱いは、AI の会社と製品のコラムに書いています。
AI の答えが誤っていることは、ありますか
- 分かっていること:生成 AI は、誤った内容を、自信のある書き方で出力することがあります(ハルシネーション)。AI 事業者ガイドライン(第1.2版)は、検索で取り出した文書を根拠として渡す方法(RAG)などで、抑制が期待されていると述べています。無くなる、という書き方ではありません。
- できること:同じガイドラインは、出力が公平性を欠かないよう、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討するとしています(公平性の項)。DS-920 は、出力の適切さを職員が判断せずに使う業務の設計では、リスクが高くなると考えられるとしています。
回答の誤りについては、AI の回答を信用できるようにするにはに書いています。
著作権などの権利は、どう整理されていますか
- 分かっていること:文化審議会の小委員会が2024年3月15日にまとめた「AI と著作権に関する考え方について」は、著作権の侵害になるには、生成物に、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が必要だとしています。この文書に、法的な拘束力はありません。
- できること:DS-920 は、国の機関の利活用ルールの事項に、生成物の扱いと知的財産権への対策を挙げています。
AI でつくる動画は、AI で研修の動画をつくるときの不安に書いています。
使う人の知識とルールは、どう関わりますか
- 分かっていること:人が、AI の出力に自動的に頼ったり、頼りすぎたりする傾向を、自動化バイアスと呼びます。AI 事業者ガイドラインは、AI に過度に依存するリスクに注意を払い、必要な対策をとることを挙げています。
- できること:同じガイドラインは、共通の指針の1つに「教育・リテラシー」を挙げています。DS-920 は、利活用ルールの周知と、入力データやハルシネーションについての注意喚起などの研修を挙げています。
日本と EU の決まりは、生成 AI の決まりのコラムに書いています。
学校や大学では、何が挙がっていますか
文部科学省は、2023年7月13日に、大学と高等専門学校に向けて、生成 AI について留意する観点を4つ周知しました。教職員への調査の結果ではありません。
- 学修活動との関係と、成績評価
- 生成された内容に、虚偽やバイアスが含まれている可能性
- 入力を通じて、機密情報や個人情報が流出、漏えいする可能性
- 著作権についての留意点
OECD の国際教員指導環境調査(TALIS)2024 は、小学校と中学校の教員と校長の調査で、日本では2024年2月中旬〜3月中旬に行われました。大学の教職員は対象ではありません。国立教育政策研究所が公開している資料は、AI が児童や生徒の偏った見方を増大させると考える教員の割合が、日本は小中学校とも国際平均より高いと説明しています。
組織では、まず何を決めますか
デジタル庁のガイドライン(DS-920)は、国の機関の利活用ルールの事項に、利用の前に知っておく知識と要機密情報の扱い、利用目的の範囲と説明責任、生成物の扱い、知的財産権への対策、リスクが起きたときの報告を挙げています。
入力した情報の扱い
入力する情報を区分する
機密の情報と個人データの扱いを決める
回答の誤り
人が確かめる段を入れる
だれが、どの段で確かめるかを決める
著作権などの権利
生成物の扱いを決める
知的財産権への対策を、ルールに入れる
使う人の知識とルール
ルールを知らせ、教える
周知と研修で、注意する点を伝える
当社による整理です。本文で紹介した公的な文書をもとにしています。
総務省の調査では、「全社的な指針やガイドラインを整備している」と答えた割合は、日本で 41.1% でした。
当社が扱う製品では、どうなっていますか
ここからは、当社が扱う製品の説明です。
| 入力した情報の扱い | Fluid Topics:開発元は、利用する企業が選んだ LLM でのデータの扱いを、その LLM の提供元のプライバシーポリシーで確認するよう案内しています。Sylavids:当社の AI モデルの学習には、お客様が個別に同意した場合に限り、同意の範囲で使います(利用規約 第7条)。 |
|---|---|
| もとになる情報 | Fluid Topics:お使いの AI モデルに、質問に合う箇所を渡します。Sylavids:画面は、元の資料がもとになります。 |
| 記録と人の確認 | Fluid Topics:どの質問に答えがなかったかを、記録で見ます。Sylavids:AI が書いた原稿と音声は下書きで、公開の前に、内容と読み方を人が確かめて直します。 |
回答を作る AI モデル(LLM)は、Fluid Topics に含まれません。詳しくは、Fluid Topics の製品ページ、Sylavids の製品ページ、信頼とセキュリティにあります。
言い切れないことは、何ですか
- 総務省の調査は、調査会社のモニターのうち、2025年までにデジタル化の取組を始めた企業の、管理職以上が対象です。
- この記事で挙げた公的な文書は、義務を定めたものとは限りません。AI 事業者ガイドラインは、法的な拘束力のないソフトローです。DS-920 は、国の機関に向けた文書です。
- ルールを作れば懸念が無くなる、とは言えません。公的な文書は、対処として挙げているまでです。
- 人が確かめる段を入れれば足りる、とは言えません。人は、AI の出力に頼りすぎることがあります。
関連するページ
- Fluid Topics:技術文書を集め、Web のポータルや AI に届けるコンテンツ基盤
- Sylavids:PowerPoint や PDF の資料から、ナレーションのついた説明動画をつくるサービス
- コラム「AI の回答を、業務で信用できるようにするには、何が要りますか」:誤り、古い情報、社内の文書の扱いを整理したコラム
- 用語集:技術文書、研修、動画、AI の用語を、業界と業務で絞り込める一覧
出典
- 企業が挙げた懸念と対策(総務省の調査):総務省: 令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部 第2章「懸念されるリスク及びリスク対策のための取組状況」(別のタブで開きます)
- 総務省の調査の時期、対象、回答数:総務省: 令和8年版 情報通信白書 付注(別のタブで開きます)
- 企業の懸念や課題(帝国データバンクの調査):帝国データバンク: 生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)(2026年5月14日 公表)(別のタブで開きます)
- AI の導入と運用の課題(IPA の調査):IPA: DX 動向 2026(別のタブで開きます)
- 10大脅威の順位と決め方:IPA: プレス発表(2026年1月29日)情報セキュリティ10大脅威 2026(別のタブで開きます)
- 生成 AI のリスクの名前:NIST: Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile(NIST AI 600-1)(別のタブで開きます)
- RAG、人の判断、自動化バイアス、教育の指針:総務省・経済産業省: AI 事業者ガイドライン(第1.2版)令和8年3月31日(別のタブで開きます)
- 国の機関の利活用ルールと要機密情報:デジタル庁: 行政の進化と革新のための生成 AI の調達・利活用に係るガイドライン(DS-920、2026年6月12日)(別のタブで開きます)
- 入力する情報についての注意喚起:個人情報保護委員会: 生成 AI サービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)(別のタブで開きます)
- 著作権の考え方:文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」令和6年3月15日(別のタブで開きます)
- 大学と高等専門学校への周知:文部科学省: 大学・高専における生成 AI の教学面の取扱いについて(令和5年7月13日)(別のタブで開きます)
- 小学校と中学校の教員の調査:国立教育政策研究所: OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2024 報告書のポイント(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 12026年の2つの調査(総務省、帝国データバンク)で、最も多く挙がった項目について、本文の説明に合うものはどれですか。
最も多く挙がったのは、総務省の調査ではセキュリティ、帝国データバンクの調査では情報の正確性でした。対象と設問が違うので、順位や割合は比べられません。
問い 2生成 AI に入力した情報の扱いについて、本文の説明に合うものはどれですか。
入力した情報の扱いは、提供元、契約、設定で違います。学習に使うかどうかと、保存するかどうかは別の点なので、それぞれを確かめます。
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