AI で研修の動画をつくるときの不安は、5つに分けて整理できます。読み間違い、合成の声での伝わり方、内容の正しさ、声の同意、資料の扱いです。どれにも、つくる前か、つくった後に、人が確かめる点があります。
このコラムが扱うのは、資料から AI が原稿とナレーションをつくる方法です。法的な助言ではありません。
つくる前
渡す前、登録する前
規約と契約、本人に伝える点を確かめる
- 資料の扱い:保存の場所など4つの点
- 声の同意:使う場面など、本人に伝える点
- 読み:専門の語の読み方を指定する
つくった後
公開の前
原稿と音声を人が確かめ、字幕を用意する
- 内容の正しさ:原稿を資料と照らす
- 読み:音声を聞いて確かめる
- 声での伝わり方:字幕を、声の種類を問わず用意する
当社による整理です。確かめる点の出どころは、本文のそれぞれの節に書いています。
読み間違いは、なぜ起きますか。どう直しますか
日本語の漢字には、複数の読みがあり、読みによって意味が違うものがあります。2022年の研究(Hida ほか)は、「方」(ほう、かた)を例に、近くの文脈しか使わない従来の解析は、こうした語の読みを誤ることがある、と述べています。Microsoft の音声合成の文書(2026年3月31日更新)も、専門の語で読み誤りが起きうる、と説明しています。
読み方を指定する書式に、SSML(別のタブで開きます) があります。バージョン 1.1 は、2010年9月7日に W3C の勧告になりました。読みの指定には、次の要素を使います。
- phoneme 要素:読みを、発音記号で書きます。
- sub 要素:囲んだ文字の代わりに、別の文字列を読ませます。
- lexicon 要素:外部の発音辞書を参照します。辞書の既定の形式は、W3C の PLS(Pronunciation Lexicon Specification)です。
Microsoft、Amazon、Google の音声合成の公式ドキュメントは、どれも、SSML の要素で読みを指定する方法を説明しています(2026年10月時点)。書き方は、サービスによって違います。
当社の整理では、指定をしても、聞いて確かめる作業は残ります。指定を付けるのは、人が気づいた語だからです。
合成の声で、学習は変わりますか
合成の声と人の声で学習を比べた研究には、差が出たものも、出なかったものもあります。「合成の声でも同じ」とも「人の声のほうがよい」とも、一律には言えません。
「声の原理(voice principle)」は、マルチメディアの教材を、コンピューターでつくった声より人の声で示したほうがよく学べる、という考え方です。Fiorella と Mayer が、2021年の本の章でこう定義しています。
| 研究 | 対象と、比べた声 | 結果 |
|---|---|---|
| Mayer ほか(2003年) | 説明のアニメーション。人の声と、機械で合成した声 | 人の声のほうが、応用のテストの成績がよかった。記憶のテストは、まちまち |
| Craig と Schroeder(2019年) | 説明のアニメーション。新旧の合成音声と、人の録音 | 新しい合成音声と人の声に、ほとんどの点で統計的な差が無かった |
| Dinçer(2022年) | 人の声、従来の機械の声、新しい機械の声 | 新しい機械の声と人の声に、有意な差は無かった |
| Del-Có González ほか(2026年) | 学部生 214人。音声だけの教材。人の声と、AI で合成した声 | 人の声のほうが、記憶の成績が有意に高かった |
表の「新しい」声は、それぞれの研究の年の技術です。表の研究に、日本語の合成音声で比べたものはありません。
字幕は、合成の声の動画でも用意しますか
W3C の WCAG は、収録済みの動画の音声にキャプションを付けることを、レベル A(達成基準 1.2.2)で求めています。この基準は、人の声か合成の声かを分けていません。くわしくは、字幕のコラムに書いています。
AI が書いた原稿は、資料のとおりになりますか
資料を渡しても、原稿が資料のとおりになるとは言い切れません。近い課題である要約の研究が、2種類の誤りを報告しています。研修の資料からつくる原稿の誤りの率を調べた研究ではありません。
- もとの文書に無い内容が入る:2020年の研究(Maynez ほか)は、要約するモデルを人が評価し、評価したどのモデルの要約にも、もとの文書に忠実でない内容が相当な量あった、と報告しています。当時のモデルでの結果です。
- もとより広い言い方になる:2025年の研究(Peters と Chin-Yee)は、10種類の LLM(大規模言語モデル)による 4,900件の要約を、もとの科学の文章と比べました。正確さを求める指示をしても、多くの LLM が、もとより広い一般化をしました。
文部科学省は、大学と高専への周知(2023年7月13日)で、生成 AI の出力の確認と裏付けが必要と考えられる、としています。教育と動画のコラムでも紹介しています。
当社の整理では、人が確かめる場所は2つあります。原稿を資料と照らすところと、音声を聞くところです。
- 1資料PowerPoint や PDF
- 2原稿AI が資料から書く
- 3人が確かめて直す原稿を資料と照らす
- 4音声を聞く合成した音声の読みを、人が確かめる
- 5書き出し動画と字幕
当社による整理です。緑の枠は、人が原稿を資料と照らして直すところです。音声も、人が聞いて確かめます。
自分や社員の声を登録するとき、何を確かめますか
声を提供する人について、Microsoft の文書は、次のことを勧めています。1社の勧めで、一般の決まりではありません。
- 使う場面(誰が聞くか、どんな状況か)を伝える。
- 録音からつくった声は、録音していない内容も話せる、と知らせる。
- 言わせたくない内容があるかを話し合う。
声の権利と表示のくわしい説明は、AI で動画をつくるときのコラムに書いています。
AI の声だと、示しますか
動画共有サービスでは、声の例の扱いが分かれています(2026年10月時点)。YouTube は、自分の声を複製したナレーションを、開示が要らない例に挙げています。Vimeo は、ナレーションに使った複製の声を、開示が要る例に挙げています。
社外秘の資料を渡す前に、何を確かめますか
社外秘の資料を渡す前に確かめる点は、保存の場所、見られる人、契約が終わった後の扱い、学習への利用です。IPA の「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」(2026年6月)と「AI 利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年3月)が挙げています。
| 保存の場所 | 手引き:データが、どの国や地域のサーバーに保存されているか。 |
|---|---|
| 見られる人 | 手引き:利用者の範囲。事業者が利用者のデータにアクセスする場合の条件。 |
| 契約が終わった後 | 手引き:利用が終了したときの、データの取扱いの条件。 |
| 学習への利用 | 豆知識:サービスの規約と、利用時の設定。 |
IPA の手引きは、クラウドサービス一般についての文書です。IPA の「豆知識」は、クラウド型のチャット AI に営業秘密を入力すると、運営する企業に渡る、とも説明しています。当社の整理では、学習に使われないことと、相手に渡らないことは、別のことです。
Sylavids では、どうなっていますか
ここからは、当社が扱う製品の説明です。
| 読み | 特定の語句の読み方を指定できます。固有名詞や読みの難しい語は、発音の修正の登録で、まとめて直せます。 |
|---|---|
| 内容の正しさ | AI が書いた原稿と音声は下書きで、公開の前に、内容と読み方を人が確かめて直します。 |
| 声の同意 | 見本の音声を録音して登録すると、その声でナレーションが付きます。本人の同意を得た声だけを登録します。 |
| 資料の扱い | 資料と、できあがった動画などのデータは、クラウド事業者の日本国内のデータセンターに保存します。アクセスできるのは、当社と、開発・運用・保守の委託先の、業務上必要な者に限ります。処理は国内の計算資源を優先し、確保できないときに限り、アジア太平洋のほかの地域のものを一時的に使うことがあります。当社の AI モデルの学習には、お客様が個別に同意した範囲に限って使います。 |
できあがったものが第三者の権利を侵害しないことを、当社が保証するものではありません。実写の撮影や映像の編集のための製品でもありません。くわしくは、Sylavids の製品ページにあります。
言い切れないことは何ですか
- 読みを指定すれば誤りが無くなる、とは言えません。
- 人が確かめれば誤りが無くなる、とは言えません。
- 本人が同意すれば十分、とは言えません。社員の声の登録、退職した人の声、同意の取り消しは、この記事で紹介した文書の対象ではありません。
- 教材に AI のナレーションだと示す義務が日本にある、とは言えません。示さなくてよい、とも言えません。
- 契約を結べば資料の扱いは十分、とは言えません。
- 個別の利用が権利の侵害に当たるかは、事案ごとの判断になります。
関連するページ
- Sylavids:PowerPoint や PDF の資料から、ナレーションのついた説明動画をつくるサービス
- コラム「AI で動画をつくるとき、何を確かめますか」:声と姿の権利、著作権、AI でつくったことの表示の整理
- コラム「生成 AI を仕事で使うとき、何が心配されていますか」:仕事での生成 AI の利用について、挙げられている懸念の整理
- 用語集:技術文書、研修、動画、AI の用語を、業界と業務で絞り込める一覧
出典
- 読み方を指定する書式(SSML):W3C: Speech Synthesis Markup Language (SSML) Version 1.1(W3C Recommendation、2010年9月7日)(別のタブで開きます)
- 日本語の読みの推定の研究:Hida ほか「Polyphone disambiguation and accent prediction using pre-trained language models in Japanese TTS front-end」(arXiv:2201.09427、2022年1月24日。ICASSP 2022 に採択)(別のタブで開きます)
- 専門の語での読み誤り:Microsoft Learn: Transparency note: text to speech(2026年3月31日更新)(別のタブで開きます)
- SSML で読みを指定する方法(Microsoft):Microsoft Learn: Pronunciation with Speech Synthesis Markup Language (SSML)(2026年2月25日更新)(別のタブで開きます)
- SSML で読みを指定する方法(Amazon):Amazon Polly Developer Guide: Using phonetic pronunciation(別のタブで開きます)
- SSML で読みを指定する方法(Google):Google Cloud Documentation: Speech Synthesis Markup Language (SSML)(Cloud Text-to-Speech)(別のタブで開きます)
- 声の原理:Fiorella, Mayer「Principles Based on Social Cues in Multimedia Learning」(The Cambridge Handbook of Multimedia Learning、Cambridge University Press、2021年)(別のタブで開きます)
- 合成の声と人の声を比べた研究(2003年):ERIC: EJ671104(Mayer、Sobko、Mautone、2003年。Journal of Educational Psychology 95巻2号、419〜425ページ)(別のタブで開きます)
- 合成の声と人の声を比べた研究(2019年):ERIC: EJ1225297(Craig と Schroeder、2019年。Journal of Educational Computing Research 57巻6号、1534〜1548ページ)(別のタブで開きます)
- 合成の声と人の声を比べた研究(2022年):ERIC: EJ1341358(Dinçer、2022年。Journal of Pedagogical Research 6巻3号、17〜26ページ)(別のタブで開きます)
- 合成の声と人の声を比べた研究(2026年):Del-Có González、Matveeva、Vikhrova(2026年。Psychology. Journal of the Higher School of Economics 23巻2号、241〜252ページ)(別のタブで開きます)
- 要約に、もとの文書に無い内容が入ることの研究:Maynez ほか「On Faithfulness and Factuality in Abstractive Summarization」(ACL 2020)(別のタブで開きます)
- 要約の言い方が広くなることの研究:Peters, Chin-Yee「Generalization bias in large language model summarization of scientific research」(arXiv:2504.00025。Royal Society Open Science 12巻4号、2025年4月30日)(別のタブで開きます)
- 声を提供する人について、Microsoft が勧めていること:Microsoft Learn: Disclosure for voice and avatar talent(2026年3月31日更新)(別のタブで開きます)
- AI でつくった内容の開示の例(YouTube):YouTube ヘルプ: Disclosing use of GenAI content(別のタブで開きます)
- AI でつくった内容の開示の例(Vimeo):Vimeo Help Center: About disclosing videos as AI-generated or AI-enhanced(別のタブで開きます)
- クラウドサービスで確かめる項目:IPA「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」(中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインの付録7。2026年6月)(別のタブで開きます)
- 学習への利用を確かめること:IPA セキュリティセンター「AI 利用者のためのセキュリティ豆知識」(2026年3月。ページの公開は 2026年4月2日)(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1合成の声と人の声で学習を比べた研究について、本文の説明に合うものはどれですか。
人の声のほうが成績がよかった研究と、新しい合成音声と人の声に差が無かった研究の両方が報告されています。一律には言えません。
問い 2クラウドの AI サービスに資料を渡すときの「学習への利用」について、本文の説明に合うものはどれですか。
IPA の文書は、クラウド型のチャット AI に営業秘密を入力すると、運営する企業に渡ると説明しています。本文は、このことから、学習に使われないことと、渡らないことを分けて整理しています。
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