動画に用意するものは、字幕のファイル1つとは限りません。音声の内容を文字で示すキャプションのほかに、翻訳のサブタイトル、トランスクリプト、音声解説、手話通訳があります。何をどこまで用意するかは、W3C のガイドライン WCAG が、達成基準とレベル(A、AA、AAA)で整理しています。
「字幕」と呼ばれるものには、何がありますか
日本語の「字幕」は、音声と同じ言語の文字と、翻訳の文字の両方を指して使われます。W3C の説明では、同じ言語のものをキャプション、別の言語に訳したものをサブタイトルと呼びます。このコラムでは、W3C の呼び分けに合わせます。
音声の情報
文字や手話で示す
音が聞こえない、聞き取りにくい場合に
- キャプション(音声と同じ言語の文字)
- トランスクリプト(内容を文字にした文書)
- 手話通訳(音声の内容を手話で)
映像の情報
音声で説明する
画面が見えない、見えにくい場合に
- 音声解説(必要な視覚の情報を音声で)
音声と映像の両方
文書にまとめる
耳と目の両方が不自由な場合に
- 映像の説明も加えたトランスクリプト
別の言語
訳した文字で示す
音は聞こえるが、言葉が分からない場合に
- サブタイトル(翻訳の字幕)
当社による整理です。緑の枠は、キャプションを含む列です。
| キャプション | 音声の内容を、同じ言語の文字で示します。理解に必要な音の情報も含みます。 |
|---|---|
| サブタイトル | 音声を別の言語に訳した文字です。W3C は、ほかの言語のサブタイトルを、直接にはアクセシビリティの対応にあたらないと説明しています。 |
| トランスクリプト | 内容を文字にした文書です。W3C は、映像の説明も加えたものを、耳と目の両方が不自由な人に必要と説明しています。 |
| 音声解説 | 理解に必要な視覚の情報を、音声で説明します。画面が見えない人、見えにくい人に向けたものです。 |
| 手話通訳 | 音声の内容を、手話の映像で伝えます。手話は、国や地域によって異なります。 |
クローズドキャプションは、視聴者が表示と非表示を切り替えられるキャプションです。再生する側の対応が必要です。オープンキャプションは、映像そのものに文字として入れてあり、常に表示されます。WCAG は、どちらの方法も認めています。
字幕のファイルには、どんな形式がありますか
字幕のファイルの主な形式は、WebVTT、SRT、TTML と、TTML の機能をしぼった IMSC です。
| 形式 | 定めたところ | 状態 | 書き方 |
|---|---|---|---|
| WebVTT | W3C | 勧告候補の草案(2026年5月20日付)。W3C 勧告ではない | WEBVTT で始まるテキスト。拡張子は .vtt |
| SRT | SubRip というソフトウェアが使う形式 | 米国議会図書館は、標準化が十分でないと説明 | 連番、時刻、字幕の文、空行を並べる。拡張子は .srt |
| TTML | W3C | TTML2 が 2018年11月8日に W3C 勧告 | XML の形式。制作のシステムの間の受け渡しが主な目的 |
| IMSC | W3C | Text Profile 1.3 が 2026年5月21日に W3C 勧告 | 配信に向けて、TTML の機能をしぼったプロファイル |
仕様書の版と状態、JIS の改正の予定は、2026年10月時点のもので、変わることがあります。
時刻の秒の小数点は、WebVTT ではピリオド、SRT ではコンマで書きます。
Web のページには、字幕をどう組み込みますか
HTML の標準は、キャプションを付ける方法を2つ挙げています。動画のストリームに埋め込む方法と、track 要素で外部のファイルを指定する方法です。WebVTT は、track 要素から読み込む外部のファイルとして使います。
トラックの種類は、kind 属性で示します。値は、subtitles、captions、descriptions、chapters、metadata の5つです。HTML の標準は、captions を、音が聞こえない、または聞き取りにくい場合に向けたものと説明しています。subtitles は、音は聞こえるが言葉が分からない場合に向けたものです。言語ごとに track 要素を並べると、複数の言語の字幕を用意できます。
WCAG 2.2 は、動画と音声に何を求めていますか
WCAG 2.2 は、動画と音声について、ガイドライン 1.2「時間ベースのメディア」の9つの達成基準で、キャプション、音声解説、代替、手話通訳などを求めています。WCAG 2.2 は、2023年10月5日に W3C 勧告になりました。
次の表は、収録済みのコンテンツに関する7つの達成基準です。名前は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の日本語訳から、末尾の「(収録済み)」を省いたものです。
| 達成基準 | レベル | 求めていること(要点) |
|---|---|---|
| 1.2.1 音声だけ及び映像だけ | A | 音声だけには代替、映像だけには代替か音声トラック |
| 1.2.2 キャプション | A | 音声つきの動画の、すべての音声の内容にキャプション |
| 1.2.3 音声解説、又はメディアに対する代替 | A | 映像の内容に、音声解説か代替のどちらか |
| 1.2.5 音声解説 | AA | 映像の内容に、音声解説 |
| 1.2.6 手話 | AAA | 音声の内容に、手話通訳 |
| 1.2.7 拡張音声解説 | AAA | 音声の合間が足りないとき、映像を止めて解説を入れる |
| 1.2.8 メディアに対する代替 | AAA | 音声つきの動画と、映像だけのコンテンツに、代替 |
達成基準の表の「代替」は、映像と音声の情報を、順に文字で説明した文書です。トランスクリプトにあたります。WCAG の日本語訳は「時間ベースのメディアに対する代替」と呼びます。例外と条件は、WCAG の本文にあります。ライブに関するものは、次の2つです。
- 1.2.4 キャプション (ライブ):レベル AA。ライブの音声の内容に、キャプションを付けます。
- 1.2.9 音声だけ (ライブ):レベル AAA。ライブの音声だけのコンテンツに、代替を用意します。
収録済みの音声つきの動画をレベル AA まで見ると、キャプション(1.2.2)のほかに、音声解説(1.2.5)も入ります。達成基準は、WebVTT や SRT などのファイルの形式までは指定していません。
自動でつくった字幕は、そのまま使えますか
W3C は、自動でつくったキャプションは、正確だと確かめない限り、利用者の必要も、アクセシビリティの要件も満たさないと説明しています。正確な字幕をつくる出発点としては使えるとも説明しています。
自動字幕は、音声認識で話し声を文字にする機能です。W3C の解説(別のタブで開きます)は、誤りの例を挙げています。「4分から5分」が「45分」に、「予熱しない」が別の意味の文に変わる例です。数語の違いで、意味が変わります。
- 1文字に起こす音声認識の結果を出発点にできる
- 2確認して直す音声と合っているかを見直す
- 3ファイルにする時刻と文を WebVTT などに書く
- 4プレーヤーで表示track 要素などで動画に結び付ける
当社による整理です。緑の枠は、自動でつくった文を、正確だと確かめる段です。
文字に起こすときは、話された内容を変えたり足したりせず、そのまま書くことを、W3C は勧めています。話し手が誰かと、理解に必要な音も書きます。
日本の規格と制度では、どうなっていますか
日本の規格 JIS X 8341-3:2016 は、WCAG 2.0 と同じ内容です。ガイドライン 1.2 の9つの達成基準は WCAG 2.0 にもあり、番号とレベルは WCAG 2.2 と同じです。ウェブアクセシビリティ基盤委員会は、JIS の改正を 2027年、遅くとも 2028年の予定と説明しています。
障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律。平成25年法律第65号)は、合理的配慮を定めています。障害のある人から、社会的障壁を取り除いてほしいという意思の表明があったときに、負担が過重でない範囲で行う、必要かつ合理的な対応です。事業者については、第8条第2項に定めがあります。2021年の改正法が 2024年4月1日に施行され、事業者にも、合理的配慮の提供が義務づけられました。
障害者差別解消法の第8条第2項は、動画や字幕などの個別の手段を挙げていません。
政府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(2023年3月14日 閣議決定)は、「環境の整備」も説明しています。不特定多数の障害のある人に向けて、事前に行う改善のことです。例に、情報アクセシビリティの向上を挙げています。障害者差別解消法の第5条は、行政機関等と事業者が、環境の整備に努めなければならないと定めています。基本方針は、合理的配慮を、環境の整備を基礎に、特定の人に対して、個別の状況に応じて行う措置と説明しています。
言い切れないこと、注意することは何ですか
- WCAG の達成基準には、字幕の正確さを数字で求める文はありません。
- キャプションがあれば手話は要らない、とは言えません。W3C は、手話を第一の言語とするろう者には、キャプションの速さでは文を十分に読み取れない人がいると説明しています。
- 障害者差別解消法の条文や基本方針が、個別の動画の字幕にどう当てはまるかは、このコラムでは判断していません。
- ブラウザーに備わっているプレーヤーの多くは、アクセシビリティの機能が限られると、W3C は説明しています。
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- 教育機関の方へ:授業動画に問いを入れ、理解を記録する進め方
出典
- キャプションとサブタイトルの違い、自動のキャプションの説明:W3C WAI: Captions/Subtitles(Making Audio and Video Media Accessible)(別のタブで開きます)
- トランスクリプト、音声解説、手話、プレーヤーの解説:W3C WAI: Making Audio and Video Media Accessible(別のタブで開きます)
- WCAG 2.2 の達成基準と、WCAG 2.0 からの項番:W3C: Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2(別のタブで開きます)
- 達成基準の日本語の名前:ウェブアクセシビリティ基盤委員会: Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2(日本語訳)(別のタブで開きます)
- WebVTT の仕様:W3C: WebVTT: The Web Video Text Tracks Format(別のタブで開きます)
- SRT の形式の解説:Library of Congress: Sustainability of Digital Formats「SubRip Subtitle format (SRT)」(別のタブで開きます)
- TTML の仕様:W3C: Timed Text Markup Language 2 (TTML2)(W3C 勧告、2018年11月8日)(別のタブで開きます)
- IMSC の仕様:W3C: IMSC Text Profile 1.3(W3C 勧告、2026年5月21日)(別のタブで開きます)
- track 要素と kind 属性:WHATWG: HTML Standard「Media elements」(track 要素)(別のタブで開きます)
- JIS X 8341-3 と WCAG の関係:ウェブアクセシビリティ基盤委員会: JIS X 8341-3 とは何なのか?(別のタブで開きます)
- 障害者差別解消法、改正法の施行、基本方針への入口:内閣府: 障害を理由とする差別の解消の推進(別のタブで開きます)
- 合理的配慮と環境の整備の説明:内閣府: 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日 閣議決定)本文(PDF)(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1WCAG 2.2 で、収録済みの動画の音声にキャプションを付けること(達成基準 1.2.2)は、どのレベルですか。
達成基準 1.2.2「キャプション (収録済み)」はレベル A です。ライブのキャプション(1.2.4)はレベル AA です。
問い 2自動でつくったキャプションについて、W3C はどう説明していますか。
W3C は、正確だと確かめない限り、利用者の必要もアクセシビリティの要件も満たさないと説明しています。正確な字幕をつくる出発点としては使えるとしています。
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