動画を Web で届ける方法には、1つの動画ファイルを置いて再生する「プログレッシブダウンロード」と、動画を短い区切り(セグメント)に分けて送る「ストリーミング」があります。HLS と MPEG-DASH は、どちらもストリーミングの方式です。
HLS と MPEG-DASH で違うのは、定めたところ、マニフェストの形式、ブラウザーでの再生のしかたです。
ファイルを置く方法と、区切って送る方法は、何が違いますか
プログレッシブダウンロードは、1つの動画ファイルを HTTP で取得して再生する方法です。HTML の video 要素に、動画ファイルの URL をそのまま指定する形です。ブラウザーは、ファイルが全部届く前でも再生を始められます。サーバーが HTTP のレンジリクエストに対応していると、ファイルの途中の部分だけを求められます。
ストリーミングは、セグメントをサーバーから続けて送り、受け取りながら再生する方式です。HLS と MPEG-DASH では、再生する側が、まず「マニフェスト」というファイルを取得します。
プログレッシブダウンロード
- 動画ファイル1つサーバーに置く
- ファイルの URLvideo 要素に、そのまま指定する
- 再生全部届く前でも始められる
ストリーミング(HLS、MPEG-DASH)
- セグメント動画を短い区切りに分けて置く
- マニフェスト再生する側が、まず取得する
- セグメントの取得HTTP で順に取得する
- 再生受け取りながら再生する
緑の枠は、再生のはじめに使うものです。動画ファイルの URL か、マニフェストかが違います。当社による整理です。
マニフェストとアダプティブビットレートは、どんなしくみですか
マニフェストには、用意した版の種類と、セグメントの場所が書かれています。再生する側は、その内容に従って、セグメントを順に取得します。HLS では「プレイリスト」と呼び、MPEG-DASH では MPD という文書がこれにあたります。
同じ動画をいくつかのビットレートで用意し、再生の途中で切り替える方法を、アダプティブビットレート配信(ABR)と呼びます。RFC 9317(別のタブで開きます) によると、再生する側が、ダウンロードの速さから帯域を見積り、そこに収まるビットレートを選びます。
- 11本の動画収録した動画
- 2複数のビットレート同じ動画を、セグメントに分けて用意する
- 3マニフェスト版の種類と、セグメントの場所を書く
- 4再生する側帯域を見積り、ビットレートを選ぶ
緑の枠は、用意した版の種類と、セグメントの場所を伝えるファイルです。当社による整理です。
CDN は、コンテンツの写しを各地のサーバーに置き、利用者に近いサーバーから届けるしくみです。HLS は、HTTP でファイルを送るので、Web と同じサーバーや CDN で配信します。
HLS と MPEG-DASH は、何が違いますか
HLS(HTTP Live Streaming)は Apple が開発した方式で、MPEG-DASH は ISO/IEC の国際規格です。HLS を記述した RFC 8216(別のタブで開きます) は、情報提供の文書で、IETF の標準ではありません。
| HLS | MPEG-DASH | |
|---|---|---|
| 定めたところ | Apple が開発 | ISO/IEC の国際規格 |
| 文書 | RFC 8216(2017年8月公開) | ISO/IEC 23009-1(第1版は 2012年4月発行) |
| 版 | プロトコルのバージョン 7 を記述 | 現行は第6版(2026年7月発行) |
| マニフェスト | プレイリスト(UTF-8 のテキスト) | MPD(XML の文書) |
| 拡張子 | .m3u8 または .m3u | .mpd |
| ライブとオンデマンド | 両方に使う | 両方に対応する |
規格の版とブラウザーの対応は、2026年10月時点のもので、変わることがあります。
HLS には、改訂の草案(Internet-Draft)が公開されていて、プロトコルのバージョン 13 を記述しています。草案は、RFC にはなっていません。
CMAF は、区切った動画、音声、字幕のデータについて、入れ物の形式と符号化の条件を定めた国際規格(ISO/IEC 23000-19)です。ISO の要旨によると、マニフェスト、プレーヤー、配信のプロトコルは定めていません。Apple の文書によると、HLS のプレイリストと MPEG-DASH の MPD から、同じ CMAF のファイルを参照できます。
ライブ配信とオンデマンド配信では、何が変わりますか
ライブ配信とオンデマンド配信では、遅延の目標が変わります。ライブ配信は、撮影や収録と並行して、できていく動画を送り続ける形です。オンデマンド配信(VOD)は、収録済みの動画をサーバーに置き、視聴者が見たいときに再生を始める形です。
RFC 9317 は、撮影から表示までの遅延の目標で、配信を次のように分けています。
| 超低遅延 | 目標は1秒未満です。この用途の多くは、RTP や WebRTC を使います。 |
|---|---|
| 低遅延のライブ | 目標は10秒未満です。HLS の拡張(LL-HLS)や MPEG-DASH の拡張(LL-DASH)で実現できます。 |
| 低遅延でないライブ | 10秒より短い目標を持たないものです。 |
| オンデマンド | ふつう、遅延は問題になりません。再生が始まるまでの時間や、途中で止まらないことが重要です。 |
遅延の目標の数字は、RFC 9317 の区分で、規格の要件でも、製品の性能の保証でもありません。
WebRTC は、ブラウザーどうしなどが、音声や映像をリアルタイムにやり取りするための技術です。
ブラウザーでは、どう再生し、どう保護しますか
ブラウザーでの再生のしかたは、HLS と MPEG-DASH で違います。コンテンツの保護には DRM というしくみがあり、暗号化した動画をブラウザーで再生するには、EME という API を使います。
- Apple の文書は、HLS を配信する方法として、video 要素にプレイリスト(M3U8)を指定する形を示しています。HLS に対応しないブラウザーに向けて、代わりの手段を入れられるとも書いています。
- MDN は、HLS に対応するものとして、iOS、Safari と、新しい版の Android のブラウザーや Chrome を挙げています。どの OS の Chrome かは、書かれていません。JavaScript で HLS を扱う方法もあり、Firefox、Chrome、Safari の新しい版に対応できるとも書いています。
- MDN は、MPEG-DASH をそのまま再生するブラウザーは無いと説明しています。video 要素につなぐには JavaScript のライブラリが要り、再生はブラウザーの MSE の対応に頼ります。
Media Source Extensions(MSE)は、W3C の仕様です。JavaScript が動画のデータを組み立てて、video 要素に渡すために使います。2016年11月17日に W3C 勧告になりました。
DRM(デジタル著作権管理)は、コンテンツを暗号化し、ライセンスを受け取った再生環境でだけ復号して再生させる、保護のしくみの総称です。
Encrypted Media Extensions(EME)は、暗号化された動画をブラウザーで再生するための API を定めた、W3C の仕様です。2017年9月18日に W3C 勧告になりました。EME は、DRM のしくみそのものは定めていません。Web ページのスクリプトと DRM のしくみをつなぐ、共通の API です。
研修や授業の動画を配るとき、何を確かめますか
研修や授業の動画を配るときに確かめることは、次の5つです。当社による整理です。
- 収録済みか、ライブか。ライブなら、遅延の目標を、RFC 9317 の区分のどこに置くか。
- 視聴者の回線が、まちまちかどうか。回線に合わせてビットレートを切り替える配信には、HLS や MPEG-DASH を使います。
- 視聴者のブラウザーで再生できるか。配る時点で確かめます。
- コンテンツを保護する必要があるか。
- ライブの音声に、キャプションを付けるか。WCAG 2.2 は、達成基準 1.2.4(レベル AA)でこれを求めています。
言い切れないことと、向かない場面は何ですか
- 「ストリーミングなら、ダウンロードされない」とは言えません。RFC 8216 は、再生する側が、プレイリストにある各セグメントをダウンロードして再生すると書いています。
- 「HLS を再生できるのは Safari だけ」とは言い切れません。MDN は、ほかのブラウザーも挙げています。
- 「暗号化していれば DRM」とも言えません。RFC 9317 は、通信の経路での暗号化と、DRM などによるアプリケーション層での暗号化を区別しています。
- 遅延の目標が1秒未満の用途は、RFC 9317 の区分で、HLS や MPEG-DASH の低遅延の拡張とは別の区分です。
- このコラムは、方式の優劣を比べていません。
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出典
- HLS の仕様:IETF: RFC 8216「HTTP Live Streaming」(2017年8月)(別のタブで開きます)
- HLS の改訂の草案:IETF Datatracker: draft-pantos-hls-rfc8216bis「HTTP Live Streaming 2nd Edition」(別のタブで開きます)
- HLS のブラウザーでの再生:Apple Developer: Deploying a Basic HTTP Live Streaming (HLS) Stream(別のタブで開きます)
- MPEG-DASH の規格:ISO: ISO/IEC 23009-1:2026 Dynamic adaptive streaming over HTTP (DASH) — Part 1: Media presentation description and segment formats(別のタブで開きます)
- MPEG-DASH のブラウザーでの再生:MDN: DASH Adaptive Streaming for HTML video(別のタブで開きます)
- ストリーミングの定義、アダプティブビットレート、遅延の区分:IETF: RFC 9317「Operational Considerations for Streaming Media」(2022年10月)(別のタブで開きます)
- CMAF の規格:ISO: ISO/IEC 23000-19:2024 Common media application format (CMAF) for segmented media(別のタブで開きます)
- CMAF と HLS の関係:Apple Developer: About the Common Media Application Format with HTTP Live Streaming (HLS)(別のタブで開きます)
- ライブ配信、HLS の対応:MDN: Livestreaming web audio and video(別のタブで開きます)
- Media Source Extensions の仕様:W3C: Media Source Extensions™(W3C Recommendation 17 November 2016)(別のタブで開きます)
- Encrypted Media Extensions の仕様:W3C: Encrypted Media Extensions(W3C 勧告、2017年9月18日)(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1HLS で、マニフェストにあたるファイルは、何と呼ばれますか。
HLS では、マニフェストをプレイリストと呼びます。MPD は、MPEG-DASH でマニフェストにあたる文書です。
問い 2Encrypted Media Extensions(EME)の説明として、本文に合うものはどれですか。
EME は、Web ページのスクリプトと DRM のしくみをつなぐ、共通の API を定めた W3C の仕様です。DRM のしくみそのものは定めていません。
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