日本には、AI の研究開発と活用を進める施策の基本を定めた AI 法と、法的な拘束力のない AI 事業者ガイドラインがあります。EU には、AI をリスクの大きさで分け、段階に応じた決まりを定めた規則、EU AI 法があります。
EU AI 法の高リスク AI システムの規定の適用日は、2026年7月の改正で延期されました。このコラムは、2026年10月時点の内容の整理で、法的な助言ではありません。適用の条件と例外は、条文で確かめてください。
日本には、どんな決まりがありますか
日本には、AI 法と、AI 事業者ガイドラインがあります。
AI 法の正式な名前は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)です。2025年6月4日に公布され、同年9月1日に全面施行されました。罰則を定めた章や条はありません(2026年10月時点)。
AI 法の第7条は、活用事業者の責務を定めています。活用事業者は、AI 関連技術を使った製品やサービスを開発、提供しようとする者など、事業活動で活用しようとする者です。条文は、積極的な活用に「努める」こと、国や地方公共団体の施策に「協力しなければならない」ことを定めています。
AI 事業者ガイドライン(別のタブで開きます)は、総務省と経済産業省がまとめた指針で、法的な拘束力を持たないソフトローです。2026年10月時点の最新は、第1.2版(2026年3月31日)です。事業者を AI 開発者、AI 提供者、AI 利用者の3つに分け、共通の指針を10項目挙げています。
ほかの法律と文書
- 著作権法 第30条の4:著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない利用(情報解析など)について定めています。ただし書きは、著作権者の利益を不当に害する場合を除いています。
- 個人情報:個人情報保護委員会は、2023年6月2日に、生成 AI サービスの利用について注意喚起を公表しました。事業者が、本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。
- 教育:文部科学省に、初等中等教育向けのガイドライン(Ver. 2.0、2024年12月26日)があります。学校での利活用を、一律に禁止したり義務づけたりするものではないとしています。大学と高等専門学校には、2023年7月13日の周知があります。
EU AI 法は、何を定め、いつから適用されますか
欧州委員会(別のタブで開きます)は、EU AI 法(Regulation (EU) 2024/1689)が、AI システムのリスクを4つの段階に分けていると説明しています。EU AI 法は 2024年8月1日に発効し、段階的に適用されています。
第5条
許容できないリスク
使い方が禁止される
第6条、附属書 III など
高リスク
要求事項と義務が定められている
第50条
透明性のリスク
AI と知らせる義務、生成物に印を付ける義務
欧州委員会の説明
最小または無しのリスク
この規則は決まりを設けていない
欧州委員会の説明による整理です。汎用目的 AI モデルは、この4つとは別の枠です。適用の条件と例外は、条文で確かめてください。
- 禁止される利用(第5条):人の行動をゆがめる操作、ソーシャルスコアリングなどです。
- 高リスク AI システム(第6条):製品の安全にかかわるもの(附属書 I)と、附属書 III の8つの分野のものです。第14条は、人が効果的に監督できる設計を求めています。
- 透明性の義務(第50条):人と直接やり取りする AI システムの提供者に、相手が AI と分かる設計を求めています(1項)。音声、画像、動画、文章を生成する AI システムの出力には、機械で読める印を求めています(2項)。導入者(自分の権限のもとで AI システムを使う者)には、ディープフェイクなどの開示を求めています(4項)。
- AI リテラシー(第4条):提供者と導入者に、職員などの AI リテラシーの育成を支える措置を求めています。個人ごとの特定の水準の保証までは求めないと、2026年の改正で書き加えられました。
- 汎用目的 AI モデル(第53条など):4つの段階とは別に、技術文書の作成と更新など、提供者の義務を定めています。
適用の日付
改正規則 (EU) 2026/1744(2026年7月27日 発効)で、高リスク AI システムの規定の適用日が延期されました。延期の後は、高リスクの規定が、附属書 III の分野では 2027年12月2日から、附属書 I の製品では 2028年8月2日から適用されます。古い資料は、延期前の日付(附属書 III は 2026年8月2日、附属書 I は 2027年8月2日)で書かれています。
- 2024年8月1日発効Regulation (EU) 2024/1689
- 2025年2月2日禁止と AI リテラシー第5条と第4条の適用が始まる
- 2025年8月2日汎用目的 AI モデル提供者の義務とガバナンスの規定
- 2026年8月2日規則の原則の適用日第50条の透明性の義務を含む
- 2027年12月2日高リスク(附属書 III)教育、雇用、重要インフラなどの分野
- 2028年8月2日高リスク(附属書 I)製品に組み込まれる AI
緑の枠は、規則の原則の適用日です。日付は、2026年10月時点の内容です。適用の条件と例外は、条文で確かめてください。
2026年12月2日には、改正で加わった2つの禁止(第5条1項(ba)(bb))の適用が始まります(第113条)。2026年8月2日より前に市場に出された生成 AI システムの提供者が、第50条2項に対応する期限も、同じ日です(第111条4項)。
日本と EU を並べると、どう見えますか
日本の AI 法は施策の基本を定める法律、EU AI 法はリスクの段階に応じた決まりを定める規則です。表は、当社による整理です。
| 日本 | EU | |
|---|---|---|
| 法律の名前 | AI 法(令和7年法律第53号) | EU AI 法(Regulation (EU) 2024/1689) |
| 法律の性格 | 施策の基本を定める法律 | リスクの段階に応じた決まりを定める規則 |
| 法律の日付 | 2025年6月4日 公布、9月1日 全面施行 | 2024年8月1日 発効、適用は段階的 |
| 2026年の改定 | ガイドライン 第1.2版(3月31日) | 改正規則 (EU) 2026/1744(7月27日 発効) |
| AI リテラシー | ガイドラインの指針「教育・リテラシー」 | 第4条(2025年2月2日から適用) |
国際的な枠組みには、何がありますか
法令のほかに、規格、枠組み、原則があります。
| ISO/IEC 42001 | AI マネジメントシステムの要求事項を定めた国際規格です。第1版は 2023年12月に発行されました。 |
|---|---|
| NIST AI RMF | 米国の NIST が 2023年1月26日に第1.0版を公表した、任意の枠組みです。2026年10月時点で、NIST は改訂中としています。 |
| OECD AI 原則 | OECD が 2019年に採択し、2024年5月に更新した原則です。 |
組織の中では、何を決めますか
組織の中で決める項目は、公的な文書と規格にある、次の5つです。決め方の助言ではありません。
| 生成 AI の利用ガイドライン | 使ってよい範囲、入力してよい情報、生成物の扱いなどを定めた、組織の決まりです。 |
|---|---|
| 入力データの取り扱い | 入力した情報を、提供者がどう扱うかです。AI の機械学習に使われるかどうかが、確かめる点です。 |
| 人による監督 | 人が AI の動きを見て、必要なときに止めたり、出力を採用しなかったりできるようにすることです。 |
| AI の影響評価 | AI システムが個人、集団、社会に与えうる影響を、調べて記録することです。ISO/IEC 42005:2025 が、進め方の手引きを示しています。 |
| AI インシデント | AI システムの開発、利用、誤作動が、実際の害につながった出来事です。OECD が、2024年5月の文書で定義を示しました。 |
製造業と教育機関には、どこが関係しますか
EU AI 法で、教育機関と製造業にかかわりうる定めは、附属書 III の「教育と職業訓練」、第5条1項(f)、附属書 I(製品に組み込まれる AI)、第2条1項です。
EU AI 法の附属書 III は、高リスクの分野の1つに「教育と職業訓練」を挙げています。入学や受け入れの決定、学習成果の評価、受ける教育の水準の判定、試験中の禁止された行為の監視と検知に使う AI です。ただし、手続き上の限られた作業だけを行う場合など、重大なリスクが無いときは、高リスクから外れると定めています(第6条3項)。人のプロファイリングを行うものは、常に高リスクとしています。
職場と教育機関で人の感情を推し量る AI は、医療または安全の理由による場合を除いて、EU AI 法の第5条1項(f) が禁じています。
EU AI 法の第2条1項は、この規則が適用される者を挙げています。(a) は、EU の中で AI システムを市場に出す、または使い始める提供者などで、EU の中にあるか第三国にあるかを問わないとしています。(c) は、第三国にある提供者と導入者で、AI システムの出力が EU の中で使われる場合です。
言い切れないこと、注意することは何ですか
- このコラムは、ある使い方がどの段階や場面に当たるかを、判断していません。
- EU AI 法の第5条、第6条、第50条は、例外も定めています。
- 日付と版は、改正や改訂で変わりえます。
- 「日本の会社に EU AI 法は関係ない」とも、「必ず適用される」とも言い切れません。
- ISO/IEC 42001 や NIST AI RMF を使えば法令に適合する、とは言い切れません。
関連するページ
- 製造業の方へ:技術文書を、AI の正しい情報源にする進め方
- 教育機関の方へ:授業動画に問いを入れ、理解を記録する進め方
- コラム「EU 機械規則で、取扱説明書をデジタルで提供する条件は何ですか」:EU の機械規則と、デジタルの取扱説明書についてのコラム
- コラム「AI で動画をつくるとき、何を確かめますか」:AI でつくる動画について、確かめる点を整理したコラム
出典
- 日本の AI 法:内閣府: 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI 法)(別のタブで開きます)
- 日本の AI 法の条文:e-Gov 法令検索: 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)(別のタブで開きます)
- AI 事業者ガイドライン:総務省・経済産業省: AI 事業者ガイドライン(第1.2版)令和8年3月31日(別のタブで開きます)
- 個人情報についての注意喚起:個人情報保護委員会: 生成 AI サービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)(別のタブで開きます)
- 教育利用のガイドライン:文部科学省: 生成 AI の利用について(別のタブで開きます)
- EU AI 法の説明と日付:European Commission: AI Act(Regulatory framework for AI)(別のタブで開きます)
- EU AI 法の条文(第2条、第5条、第50条、第111条、第113条など):EUR-Lex: Regulation (EU) 2024/1689(2026年7月27日の統合版)(別のタブで開きます)
- EU AI 法の改正:EUR-Lex: Regulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI、2026年7月8日)(別のタブで開きます)
- 高リスクの分野(附属書 III):European Commission AI Act Service Desk: Annex III(別のタブで開きます)
- ISO/IEC 42001:ISO: ISO/IEC 42001:2023 Information technology — Artificial intelligence — Management system(別のタブで開きます)
- NIST AI RMF:NIST: AI Risk Management Framework(別のタブで開きます)
- OECD AI 原則:OECD.AI: OECD AI Principles overview(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1EU AI 法の高リスク AI システムの規定のうち、附属書 III の分野(教育、雇用など)は、いつから適用されますか。
改正規則 (EU) 2026/1744 で延期され、附属書 III の分野は 2027年12月2日からです。2028年8月2日は、製品に組み込まれる AI(附属書 I)の日付です。
問い 2日本の AI 事業者ガイドラインは、どんな性格の文書ですか。
総務省と経済産業省がまとめた指針で、法的な拘束力を持たないソフトローです。
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