第1回では、構造化とは、文書を見た目ではなく意味の役割で区切って書くことだと説明しました。そう聞くと、「Word でも見出しのスタイルは付けられる」「Markdown も見出しや箇条書きを書き分けている」と思うかもしれません。どれも、ある程度は構造を持っています。違いは、どこまで役割を記録し、どこまでソフトが確かめられるかです。

同じ注意書きを、4つの書き方で書くと

「カバーを外す前に、電源を切ってください。感電のおそれがあります。」という警告を、4つの書き方で書いたとします。

書き方ファイルに残るものソフトに分かること
テキスト文字だけ文字の並び。どこが警告かは分からない
Word文字と、見た目(太字、赤、枠)。スタイルを使えば、その名前も「警告」というスタイルを付けていれば、その名前。付けていなければ、見た目だけ
Markdown文字と、記号(見出しの #、強調の ** など)見出し、箇条書き、強調などの、汎用の形
構造化した文書(DITA など)文字と、役割の名前(警告、手順、前提など)「警告」であること、その種類、どの機種に当てはまるか

表は当社による整理です。右へ行くほど、文書に残る情報が増え、ソフトや AI ができることが増えます。

テキストは、何が得意ですか

テキスト(文字だけのファイル)は、どのソフトでも開け、長く読める形です。一方で、見出しも、表も、警告も、区切りは人の目で判断するしかありません。メモや、ほかの形に変える前の下書きに向いています。

Word の文書は、構造化されていますか

Word の .docx のファイルは、中身が XML(データの意味を、名前の付いた印で囲んで書く形式)でできています。Office Open XML という国際標準の形式で、いくつもの部品をまとめた入れ物として保存されています。けれども、そこに記録されているのは、主に文字と、段落の見た目と、スタイルの名前です。

Word でも、「見出し 1」などのスタイルを使えば、目次を作ったり、文書を組み替えたりできます。ただし、スタイルを使うかどうかは書く人しだいです。太字で大きな文字にしただけでも、見た目は見出しになります。Word には、そうした見た目だけの見出しを推測して、ナビゲーションに出す機能まであります。裏を返せば、Word の文書では、何が見出しかを、ソフトが推測しなければならないことがある、ということです。

「警告」「手順」のスタイルを自分で作ることもできます。けれども、手順の中に警告を入れ忘れた、警告のスタイルを付け忘れた、といった誤りを、Word は止めてくれません。

Markdown は、構造化ですか

Markdown は、記号で見出しや箇条書きを書く、軽い書き方です。作者の John Gruber は、2004年に公開したとき、テキストのまま読んでも読みやすいことを目指したと説明しています。開発者の文書や社内の Wiki で、広く使われています。

Markdown が記録できるのは、見出し、段落、箇条書き、表、強調、コードといった、どの文書にもある汎用の形です。「警告」「手順の 1つ」「この機種だけの説明」といった、意味の役割を表す決まりはありません。また、もとの説明にあいまいな点があったため、ソフトによって表示が違う「方言」が生まれ、書き方を厳密に決めた CommonMark という仕様が作られました。

Markdown は、見出しで区切られている点で、テキストよりも構造を持っています。AI の検索のしくみでも、Markdown の見出しを使って、文書を節ごとに分けることがあります。小さな文書や、開発者向けの文書には、よい選択です。

構造化した文書は、何が違いますか

DITA などの構造化した文書は、XML で書き、「この文書では、どの役割を、どの順番で、どこに書いてよいか」という決まり(スキーマ)を持っています。ソフトは、決まりに合っているかを、書いている途中で確かめます。たとえば、手順の型では、作業の指示を書ける場所が決まっていて、決まりから外れると、ソフトが誤りとして知らせます。

図構造化した文書だけが、標準でできること
  1. 1決まりを守らせる役割の順番や入れ忘れを、ソフトが確かめる
  2. 2部品を参照する注意書きを 1か所に書き、ほかの文書から呼び出す
  3. 3条件で出し分ける機種や地域の印を付け、要る部分だけで組み立てる
  4. 4意味で探す役割やメタデータで、AI や検索が絞り込める

当社による整理です。Word や Markdown でも、追加の機能や独自の決まりで近いことができる場合があります。

4つを、まとめて比べると

テキストWordMarkdown構造化した文書
見出しの区別なしスタイルを使えば、ありありあり
手順・警告などの役割なし自分でスタイルを作れば、名前だけなしあり(決まりで定める)
決まりを守らせるなしなしなしあり(スキーマで確かめる)
部品の使い回しコピーして貼るコピーして貼るコピーして貼る参照する(直すのは 1か所)
機種や読み手での出し分け冊を分ける冊を分ける冊を分ける条件の印で、1つの原稿から
書きやすさとても書きやすい書きやすい書きやすい専用のエディターと、慣れが要る
向いている文書メモ、下書き一度きりの文書、契約書、報告書開発者向けの文書、社内 Wiki多機種のマニュアル、翻訳する文書、長く改訂する文書

表は、それぞれの標準的な使い方で比べた、当社による整理です。

どれを選べばよいですか

どれかが優れている、ということではありません。文書の使われ方で選びます。

  • 一度きりの文書や、社外とやり取りする契約書は、Word が向いています。見出しのスタイルをそろえるだけで、目次と読みやすさが整います。
  • 開発者向けの文書や、社内のちょっとした手順は、Markdown が向いています。
  • 何冊にも同じ説明が出てくる、翻訳する、改訂が多い、AI に読ませる。こうした文書は、構造化を考える価値があります。

1つの会社の中で、文書ごとに書き方を使い分けるのが普通です。次回は、自分の会社の文書のうち、どれを構造化すると効果が出るのかを確かめる方法を紹介します。

このコラムで言えないこと

  • Word には、コンテンツコントロールなどの機能や追加のソフトがあり、Markdown にも拡張の書き方があります。それらを使えば、表の比べ方は変わります。
  • 構造化した文書を書くエディターの使いやすさは、製品によって違います。

連載「情報の構造化って、何ですか」

まずは、文書を一緒に見てみませんか

構造化が要るかどうかは、文書を見ないと決められません。いまお使いの文書をいくつか見せていただければ、どこから整えると効果が出やすいかを、一緒に確かめます。

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出典

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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。

問い 1Word の文書について、このコラムの説明と合っているのはどれですか。

問い 2Markdown で表せないものとして、このコラムで挙げたものはどれですか。

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