「VR で研修を」「AR で作業の手順を」。こうした言葉を耳にする機会が増えました。けれども、AR と VR は何が違うのか、360度動画は VR なのか、すぐには答えにくいものです。
このコラムでは、4つの言葉を整理したうえで、「その場にいるような感覚(臨場感)」と「学び」の関係を、研究をもとに見ていきます。
AR、VR、XR、360度動画は、何が違いますか
AR(拡張現実)
目の前の現実に、画像や文字を重ねる
VR(仮想現実)
周りをすべて、つくった世界や映像で包む
XR
VR、AR、MR をまとめた呼び方
360度動画
全方向を撮った動画。見る方向を自分で選ぶ
当社による整理です。くわしい定義は、それぞれの用語のページにあります。
AR は現実が土台で、VR は仮想の世界が土台です。Milgram と Kishino(1994年)は、現実から仮想までを 1本の線で表し、その間で両方が混ざるものを複合現実(MR)と呼びました。これらをまとめて XR と呼びます。
360度動画 は、上下左右すべての方向を撮った動画です。ヘッドセットで見れば VR に近い体験になりますが、パソコンやスマートフォンの画面でも、ドラッグして見回すことができます。
臨場感が高いほど、よく学べますか
そうとは限りません。大学生 52人が、同じ理科の実験のシミュレーションを、ヘッドセットの VR と、パソコンの画面で学んだ実験(Makransky ほか、2019年)があります。VR の群は、その場にいる感覚は高かった(効果量 d = 1.30)一方で、学習の成績は低く(d = 0.80)、脳波で測った負荷は高い(d = 0.59)結果でした。
見るものが多く、新しい体験に気を取られると、肝心の内容に頭を使う余裕が減る、と考えられます。
たくさんの研究をまとめると、どうなりますか
2016年から2020年の 48 の研究(学習者 3,179人)をまとめたメタ分析(Coban ほか、2022年)では、没入型の VR は、学習に対して全体として小さなよい効果(g = 0.38)を示しました。効果は、学ぶ分野や、比べる相手(パソコンの教材か、従来の教材か)によって違いました。
つまり、VR は「使えば必ず学びが深まる」ものではなく、向いている場面を選んで使う道具です。
どんな場面に向いていますか
- 1危ない、行けない場所工場の高所、災害の現場、遠くの施設を、先に見ておく
- 2空間をつかみたいとき設備の配置や、建物の中の動き方を知る
- 3現場の前の予習本番の前に一度見ておき、当日の戸惑いを減らす
- 4見たあとに確かめる見るだけで終わらせず、問いで理解を確かめる
当社による整理です。
360度動画は、始めやすい形です
VR のための世界をつくるには、手間も費用もかかります。360度動画なら、専用のカメラで撮影した映像を使えます。YouTube では、パソコンのブラウザーでドラッグして見回せるほか、VR のヘッドセットでも見られます。ヘッドセットを人数分そろえなくても、始められます。
360度動画に、問いを重ねると
hihaho では、YouTube や Vimeo に置いた 360度動画に、問いやボタンを重ねられます。設定で 360度動画として扱うと、見る人は画面をドラッグして周りを見回せます。
- 工場の中を見回しながら、「非常口はどこですか」と問いかける。
- 店舗の売り場を見回しながら、気づいた点を選んでもらう。
- 説明会の会場や施設を、来る前に見て回ってもらう。
見回して、見つけて、答える。見る人が自分で動くことで、ただ眺めるだけの動画より、内容に目を向けやすくなります。問いの効果については、「動画の途中に問いを入れると、学習は変わりますか」で紹介しています。
使うときに、気をつけること
- 短く区切る:長い時間の視聴は、疲れや画面酔いにつながることがあります。
- 見るものを絞る:見どころが多すぎると、肝心の内容から気がそれます。
- 画面でも見られるようにする:ヘッドセットを持たない人も、パソコンやスマートフォンで見られる形にしておきます。
- 字幕や説明の文を添える:音を出せない場所でも、内容が伝わるようにします。
このコラムで言えないこと
- 紹介した研究の多くは、学生を対象にした実験です。企業の研修に、そのまま当てはまるとは言えません。
- 効果量は、比べる相手や測り方が研究ごとに違うため、数字どうしを並べて比べるものではありません。
- AR、VR、XR の言葉の使い分けは、製品や団体によって少しずつ違います。
一緒に、見せ方を考えませんか
臨場感は、学びの入り口になります。大切なのは、見せたあとに、何を確かめるかです。360度動画と問いの組み合わせから、小さく始めてみませんか。お手元の現場や資料から、一緒に考えます。
関連するページ
- hihaho:360度動画にも、問いやボタンを重ねられるインタラクティブ動画
- 動画は、紙や PDF より伝わりますか:情報量と理解の関係、字幕と問いの効果
- 動画の途中に問いを入れると、学習は変わりますか:問いの効果の研究
出典
- 現実と仮想の連続体Milgram, Kishino「A Taxonomy of Mixed Reality Visual Displays」IEICE Transactions on Information and Systems E77-D(12): 1321–1329(1994年)(別のタブで開きます)
- XR の呼び方Unity マニュアル:XR(別のタブで開きます)
- VR と画面の比較の実験Makransky, Terkildsen, Mayer「Adding immersive virtual reality to a science lab simulation causes more presence but less learning」Learning and Instruction 60: 225–236(2019年)(別のタブで開きます)
- 没入型 VR のメタ分析Coban, Bolat, Goksu「The potential of immersive virtual reality to enhance learning: A meta-analysis」Educational Research Review 36(2022年)(別のタブで開きます)
- 360度動画の見方YouTube ヘルプ:180° 動画または 360° 動画のアップロード(別のタブで開きます)
- hihaho での 360度動画hihaho Help Center: Making a 360 degree video interactive(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1AR(拡張現実)の説明として、合っているのはどれですか。
AR は現実が土台です。周りをすべて仮想の世界で包むのは VR、全方向を撮った動画は 360度動画です。
問い 2VR とパソコンの画面で学び比べた実験(2019年)の結果は、どれですか。
VR の群は臨場感が高かった一方で、学習の成績は低く、脳波で測った負荷は高い結果でした。
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