第1回では、構造化とは何か、第2回では、Word やテキスト、Markdown との違いを見ました。では、自分の会社の文書は、構造化したほうがよいのでしょうか。
構造化は、製品のマニュアルを作る会社だけの話ではありません。社内の規程、営業の資料、お客様向けの FAQ、研修の資料、製品の仕様書。同じ説明があちこちにコピーされ、直すたびに探している文書は、どの会社にもあります。
構造化が要る文書の、6つのサイン
- 1同じ文が、何か所にもある注意書き、会社の説明、規程の一節が、資料ごとにコピーされている
- 2どれが最新か分からない直した版と古い版が混ざり、配ってから気づく
- 3翻訳のたびに、同じ文に費用がかかる少し直しただけでも、文書ごと翻訳に出している
- 4探す時間が長い答えは文書のどこかにあるが、見つけるのに時間がかかる
- 5人によって書き方が違う同じ手順が、書いた人ごとに違う順番と言葉になっている
- 6AI が、違う機種や古い版で答える社内の AI に文書を読ませたら、答えが混ざる
当社による整理です。
なぜ、いま構造化なのですか
6つ目のサインは、ここ数年で急に増えました。文書を読むのが、人だけでなく AI になったからです。
調査会社の Gartner は 2025年2月、AI のためのデータの管理のしかたが整っていない、または整っているか分からない組織が 63% にのぼる、という調査の結果を公表しました。あわせて、2026年までに、AI に使える形に整ったデータに支えられていない AI のプロジェクトの 60% が、組織に放棄されると予測しています。社内の文書は、AI にとってのデータです。
AI の検索のしくみ(RAG)は、文書を小さな塊に分けて、質問に近い塊を探し出します。Microsoft の Azure AI Search の説明は、見出しや段落といった文書の構造に沿って分けると、塊のまとまりがよくなり、検索の結果の質が上がると説明しています。見た目だけで書かれた文書では、どこからどこまでが 1つの手順で、どの機種の話なのかを、AI が取り違えることがあります。
確かめのシート:30分で、自社の文書を見る
代表的な文書を 3〜5冊選び、次の 7つを確かめます。数えるだけで、構造化の効果が出そうな文書が見えてきます。
| 確かめること | 確かめ方 | 当てはまる目安 |
|---|---|---|
| 同じ文のコピー | よく使う注意書きや説明を 1つ選び、文書の置き場所を全文検索して、出てくる数を数える | 3か所以上 |
| 機種や読み手の違い | 1冊の中に「〇〇の場合は」「〇〇をお使いの方は」が何回出てくるかを数える | 10回以上、または機種ごとに冊を分けている |
| 改訂の多さ | 去年 1年で、その文書を何回直したか | 年に 4回以上 |
| 翻訳 | 翻訳している言語の数と、直すたびに文書ごと翻訳に出しているか | 2言語以上、または毎回文書ごと |
| 届ける形の数 | PDF、Web、社内のポータル、チャットボットなど、同じ内容を届けている形の数 | 3つ以上 |
| 書く人の数 | その文書に、何人が書いたり直したりしているか | 5人以上 |
| AI に読ませる予定 | 社内やお客様向けの AI に、その文書を読ませる予定があるか | ある |
目安の数は、当社がご相談を受けるときの目安です。会社や文書によって変わります。
結果を、どう読みますか
| 当てはまった数 | まずやること |
|---|---|
| 0〜1 | 今の書き方を整えます。Word なら、見出しや警告のスタイルをそろえ、書き方の決まりを 1枚にまとめます。 |
| 2〜3 | よく使う部分から、部品にします。注意書き、会社の説明、よくある質問など、コピーの多いものから 1か所にまとめます。 |
| 4以上 | 構造化を検討する時期です。1つの製品や 1冊の文書で、小さく試します。 |
小さく始めるには
すべての文書を一度に変える必要はありません。次の順で、小さく始めます。
- 1数える確かめのシートで、効果の出そうな文書を選ぶ
- 2型を決める概念、手順、参照、警告など、使う役割を決める
- 31冊で試す1つの製品や 1冊を、型に沿って書き直す
- 4測る直す時間、翻訳の量、探す時間、AI の答えを、前と後で比べる
当社による整理です。
試す前に、何を測り、どうなったら広げるかを決めておきます。決め方は、連載「DX は、IT 導入と何が違うのか」の第3回で紹介した PoC の計画シートが使えます。
記入例:こう読めたら、構造化の候補です
| 確かめること | 記入例(産業機械のメーカーの場合) |
|---|---|
| 同じ文のコピー | 「電源を切ってから作業してください」が、12冊に 47か所 |
| 機種や読み手の違い | 機種ごとに 8冊に分けている。中身の 7割は同じ |
| 改訂の多さ | 部品の変更で、年に 6回 |
| 翻訳 | 英語と中国語。直すたびに、冊ごと翻訳に出している |
| 届ける形の数 | PDF と、サービス担当向けのタブレット |
| 書く人の数 | 設計 3名、サービス 2名 |
| AI に読ませる予定 | サービス担当向けの AI の検索を、来年試す |
記入例は、説明のための架空の例です。この例では 7つすべてが当てはまり、注意書きを部品にするだけでも、直す箇所が 47か所から 1か所になります。
連載のふりかえり
構造化は、文書を見た目ではなく意味で書くことです。Word やテキスト、Markdown にもそれぞれの良さがありますが、同じ説明が何冊にも出てくる、翻訳する、改訂が多い、AI に読ませる。そうした文書ほど、構造化の効果は大きくなります。まずは、自社の文書のコピーの数を数えるところから始めてみてください。
このコラムで言えないこと
- 確かめのシートの目安の数は、当社による目安です。調査や規格で決まった数ではありません。
- Gartner の数字は、2025年時点の調査と予測です。文書の構造化だけを対象にしたものではありません。
- 構造化には、型を決める時間、書き方を覚える時間、ツールの費用がかかります。効果は、文書の量と重なりで変わります。
連載「情報の構造化って、何ですか」
- 第1回 情報の構造化って、何ですか
- 第2回 Word、テキスト、Markdown と、何が違いますか
- 第3回 あなたの会社の文書に、構造化は要りますか(この回)
まずは、文書を一緒に見てみませんか
構造化が要るかどうかは、文書を見ないと決められません。いまお使いの文書をいくつか見せていただければ、どこから整えると効果が出やすいかを、一緒に確かめます。
関連するページ
- 第2回 Word、テキスト、Markdown と、何が違いますか:前の回
- 情報の構造化支援:Word・PDF の文書を、部品に分け、DITA の型に整える支援
- コラム「DITA とは何ですか」:技術文書を部品に分けて書く規格の、基本と使いどころ
- コラム「PDF のマニュアルを AI に読ませると」:文書の構造が失われると、AI の答えに何が起きるか
出典
- AI に使えるデータが整っていないことの影響:Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日)(別のタブで開きます)
- 文書の構造に沿って分けると、AI の検索の質が上がること:Microsoft Learn「Chunk and vectorize by document layout or structure」(Azure AI Search)(別のタブで開きます)
- 見出しを使って、文書を節ごとに分けること:Microsoft Learn「Chunk large documents for vector search solutions」(Azure AI Search)(別のタブで開きます)
- トピックに分けて書く利点(再利用、翻訳と更新、絞り込み):OASIS「DITA Version 1.2」The benefits of a topic-based architecture(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1このコラムで挙げた、構造化が要る文書のサインに含まれないものは、どれですか。
このコラムで挙げたサインは、同じ文のコピー、最新の版が分からない、翻訳の費用、探す時間、書き方のばらつき、AI の答えの混ざりの 6つです。ページ数は挙げていません。
問い 2構造化を小さく始めるときの最初の一歩として、このコラムで挙げたものはどれですか。
まず数えて、効果の出そうな文書を選びます。そのあと、型を決め、1冊で試し、前と後を測ります。
このコラムに出てきた用語
このコラムは、役に立ちましたか。
よろしければ、理由を教えてください。
お名前やメールアドレスなど、個人が分かることは書かないでください。返事は差し上げられません。返事が必要なときは、お問い合わせからどうぞ。
課題を相談する
読んだ内容を、自社の状況に当てはめたいときは、いまの状況と課題をお知らせください。製品が決まっていなくても、相談できます。大学との共同研究と、教材や文書づくりの支援で得た知見をもとに、進め方を一緒に整理します。
