「うちも DX を進めないと」。そう言われて始めた取り組みが、気づけばチャットツールや AI の導入だけで終わっている。そんな声をよく聞きます。ツールを入れること自体は、悪いことではありません。けれども、それを DX と呼んでよいのでしょうか。
全3回のこの連載では、IT 導入と DX の違い(第1回)、考え方の 2つの型(第2回)、DX や AI の PoC(試しの導入)が実らない理由(第3回)を、順に見ていきます。
経済産業省は、DX をどう定義していますか
経済産業省のデジタルガバナンス・コード2.0 は、DX を次のように定義しています。要点だけを抜き出すと、「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。
ここで、デジタル技術は手段として書かれています。目的は、顧客や社会のニーズに応え、製品、サービス、ビジネスモデル、そして組織や文化までを変えることです。
デジタル化には、3つの段階があります
経済産業省の DX レポート2(2020年)は、デジタル化を 3つの段階に分けて整理しています。
- 1デジタイゼーションアナログ・物理データのデジタルデータ化
- 2デジタライゼーション個別の業務・製造プロセスのデジタル化
- 3デジタルトランスフォーメーション組織横断・全体のプロセスのデジタル化と、顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルの変革
DX レポート2(経済産業省、2020年12月28日)をもとにした近畿経済産業局の資料の言葉を、当社がまとめました。
紙の申込書を PDF にするのは、1つ目の段階(デジタイゼーション)です。申込の受付をシステムにして、入力の手間をなくすのは、2つ目の段階(デジタライゼーション)です。申込の記録を使って、お客様ごとに新しいサービスを提案する仕組みをつくり、売り方そのものを変えるのが、3つ目の段階です。
IT 導入と DX は、どこが違いますか
IT 導入の多くは、1つ目と 2つ目の段階にあたります。どれも DX に欠かせない土台ですが、それだけでは DX とは言えません。違いを表にまとめました。
| IT 導入(デジタイゼーション・デジタライゼーション) | DX | |
|---|---|---|
| 出発点 | 今の業務の困りごと | 顧客や社会のニーズ、目指す事業の姿 |
| 変えるもの | 個別の作業や業務の進め方 | 製品、サービス、ビジネスモデル、組織、文化 |
| 範囲 | 1つの部署や業務 | 組織を横断して、全体 |
| 成果の例 | 作業時間の削減、ミスの減少 | 売上や利益、顧客の満足、新しい事業 |
| 主に関わる人 | 現場の担当者と情報システムの担当 | 経営者を含む、組織全体 |
表は当社による整理です。2つは対立するものではなく、つながっています。IT 導入で業務とデータが整うと、その上に DX を積み上げられます。
日本企業の DX の成果は、どうなっていますか
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」は、日本、米国、ドイツの企業を調べています。DX の「成果が出ている」と答えた企業は、米国とドイツで 8割を超え、日本は 6割弱でした。日本で多い成果は、人件費などのコストの削減や、提供にかかる日数の削減でした。米国とドイツでは、売上の増加、利益の増加、市場シェア、顧客の満足といった、事業の価値に関わる成果が多く挙がりました。
日本の取り組みは、まだ業務の効率化、つまり 2つ目の段階にとどまっていることが多い、と読めます。
チェックリスト:その取り組みは、どの段階ですか
- □ 目的が「ツールを入れること」になっていない。
- □ 誰の、どんなニーズに応えるのかを言える。
- □ 変えるものが、作業だけでなく、サービスや売り方にも及んでいる。
- □ 1つの部署で終わらず、関わる部署が一緒に進めている。
- □ 成果を、時間やコストだけでなく、売上や顧客の満足でも測る。
当てはまらない項目が多くても、問題ではありません。今の取り組みが 1つ目や 2つ目の段階だと分かれば、その先に何を目指すのかを考えるきっかけになります。
このコラムで言えないこと
- DX の定義と 3つの段階は、経済産業省の整理によります。ほかの団体や文献では、違う言葉で説明されることがあります。
- IPA の調査の数字は、回答した企業の自己評価です。成果の中身や測り方は、企業ごとに違います。
連載「DX は、IT 導入と何が違うのか」
- 第1回 IT 導入と DX は、何が違いますか(この回)
- 第2回 積み上げ型と、未来からの逆算型
- 第3回 PoC が実らないのは、技術のせいですか
目的の整理から製品の選び方、予算の説明までの具体的な進め方は、連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」(全5回)で、テンプレートと一緒に紹介しています。
一緒に、目標から考えませんか
「AI を入れたい」「DX を進めたい」という段階からでも構いません。その先に何を実現したいのかを、一緒に言葉にするところから始めます。
関連するページ
- 第2回 積み上げ型と、未来からの逆算型:次の回
- IT ツールを選ぶ前に、何をしますか:連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」第1回
出典
- DX の定義と、DX の 3つの段階:近畿経済産業局「DXに関する経済産業省の施策紹介」(2023年3月、PDF)。DX レポート2(経済産業省、2020年12月28日)と、デジタルガバナンス・コード2.0 による(別のタブで開きます)
- 日本・米国・ドイツの DX の成果と、成果を測る指標:IPA「DX動向2025」の公表(2025年6月26日)(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1紙の申込書を PDF にすることは、デジタル化の 3つの段階のどれにあたりますか。
アナログ・物理データのデジタルデータ化なので、1つ目の段階のデジタイゼーションです。
問い 2経済産業省の定義で、DX の目的に近いのはどれですか。
定義では、デジタル技術は手段です。目的は、ニーズを基にした変革と、競争上の優位性の確立です。
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