第1回では、IT 導入と DX の違いを、デジタル化の 3つの段階で見ました。では、DX は、どこから考え始めればよいのでしょうか。考え方には、大きく 2つの型があります。
2つの型は、何が違いますか
課題解決の積み上げ型
今から、先へ
今の困りごとを見つけ、原因を取り除き、良くしたものを積み上げていく
- 出発点:今の業務の困りごと
- 得意なこと:効率化、ミスの削減
- 向く段階:デジタイゼーション、デジタライゼーション
未来からの逆算型
未来から、今へ
目指す未来の姿を先に描き、そこから逆にたどって、今やることを決める
- 出発点:顧客や事業の、ありたい姿
- 得意なこと:新しい価値、売り方の変革
- 向く段階:デジタルトランスフォーメーション
当社による整理です。
未来から逆にたどる考え方は、バックキャスティングと呼ばれます。この言葉は、Robinson(1982年)がエネルギー政策の分析の方法として示したのが始まりとされています。今の延長で先を見通すフォアキャスティング(予測)と対になる考え方です。
積み上げ型だけでは、何が起きますか
積み上げ型は、確実で、成果が見えやすい考え方です。IT 導入の多くは、この型で進みます。一方で、出発点が今の業務なので、今の業務のやり方そのものは疑いにくくなります。どの部署も自分の困りごとを解くと、部署ごとに別々のツールが入り、データがつながらないことがあります。
IPA の「DX動向2025」でも、日本企業は個別の業務の最適化に取り組む割合が高く、米国とドイツの企業は全社の最適化に取り組む割合が高い、と報告されています。
逆算型だけでは、何が起きますか
逆算型は、大きな変化を描けます。けれども、未来の姿が現場の困りごととつながっていないと、「絵に描いた餅」になります。また、未来の姿があいまいなままだと、何から手をつけるかが決まりません。
2つを、どう組み合わせますか
当社がご相談を受けるときは、次の順で考えることが多くあります。
- 未来の姿を描く3年後、お客様にどんな体験を届けたいか
- 今との差を見るその姿と、今の姿は何が違うか
- 差を段階に分ける3年後、2年後、1年後に何ができていればよいか
- 今年の一歩を積み上げる今の困りごとのうち、未来の姿に近づくものから解く
当社による整理です。
方向は逆算で決め、足元は積み上げで進む。こうすると、今年の IT 導入が、未来の姿への一歩として説明できます。予算の説明も、「便利になる」から「3年後の姿に近づく」に変わります。
テンプレート:逆算シート
| 項目 | 書くこと | 記入例(研修の会社の場合) |
|---|---|---|
| 未来の姿(3年後) | お客様に、どんな体験を届けているか | 受講者が、仕事の現場で迷ったとき、その場で必要な説明と確認の問いにたどり着ける |
| そのときの事業 | 何で価値を生み、どう売っているか | 研修の日数の販売から、現場での学びの支援の継続契約へ |
| 今の姿 | 今は、どうなっているか | 集合研修が中心。終わったあとの理解は確かめていない |
| 2年後 | 途中で、何ができていればよいか | 研修の内容を部品に分け、現場から探して見られる |
| 1年後 | 1年後に、何ができていればよいか | 主な研修の動画に確認の問いを入れ、理解を記録できる |
| 今年の一歩 | 今の困りごとのうち、未来に近づくもの | 研修資料の置き場所を 1つにまとめる |
| 測るもの | 未来の姿に近づいたかを、何で測るか | 研修後 3か月の現場での問い合わせ件数、継続契約の数 |
記入例は、説明のための架空の例です。
チェックリスト:考え方の確認
- □ 未来の姿が、お客様や社会の側から書かれている。
- □ 未来の姿と、今の姿の差を言える。
- □ 差を、年ごとの段階に分けた。
- □ 今年の IT 導入が、どの段階につながるかを説明できる。
- □ 未来の姿に近づいたかを測るものを決めた。
このコラムで言えないこと
- 「積み上げ型」「逆算型」の名前と、組み合わせ方は、当社による整理です。
- どちらの型がよいかは、会社の状況や目的によって変わります。
連載「DX は、IT 導入と何が違うのか」
- 第1回 IT 導入と DX は、何が違いますか
- 第2回 積み上げ型と、未来からの逆算型(この回)
- 第3回 PoC が実らないのは、技術のせいですか
目的の整理から製品の選び方、予算の説明までの具体的な進め方は、連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」(全5回)で、テンプレートと一緒に紹介しています。
一緒に、目標から考えませんか
「AI を入れたい」「DX を進めたい」という段階からでも構いません。その先に何を実現したいのかを、一緒に言葉にするところから始めます。
関連するページ
- 第1回 IT 導入と DX は、何が違いますか:前の回
- 第3回 PoC が実らないのは、技術のせいですか:次の回
- IT ツールを選ぶ前に、何をしますか:連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」第1回
出典
- バックキャスティングの名前と考え方:Robinson, J.「Energy Backcasting: A Proposed Method of Policy Analysis」Energy Policy, 10(4), 337–345(1982年)。Wikipedia: Backcasting による(別のタブで開きます)
- 日本・米国・ドイツの DX の成果と、成果を測る指標:IPA「DX動向2025」の公表(2025年6月26日)(別のタブで開きます)
- DX の定義と、DX の 3つの段階:近畿経済産業局「DXに関する経済産業省の施策紹介」(2023年3月、PDF)。DX レポート2(経済産業省、2020年12月28日)と、デジタルガバナンス・コード2.0 による(別のタブで開きます)
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この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1目指す未来の姿を先に描き、そこから逆にたどって今やることを決める考え方は、どれですか。
未来から逆にたどる考え方を、バックキャスティングと呼びます。今の延長で先を見通すのが、フォアキャスティングです。
問い 2積み上げ型だけで進めたときに起きやすいことは、どれですか。
積み上げ型は今の業務から出発するので、部署ごとの最適化になりやすい面があります。
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