「ツールを入れてほしい、と言われたけれど、何から始めればいいのか」「見積りを取ったら、予算が通らなかった」「製品が多すぎて、選べない」。IT の導入を任された担当者から、よく聞く悩みです。
こうしたつまずきの多くは、製品を比べる前の準備で決まります。この連載では、ビジネスの目的・目標と今の姿から改善点を洗い出し、ビジネス要件、システム要件、機能要件・非機能要件を経て、IT を導入するまでを、全5回で順にたどります。各回に、そのまま使えるチェックリストとテンプレートを付けました。
- 1目的・目標と今の姿何のために、どこまで。今はどうなっているか
- 2改善点と順番どこを、どの順で直すか
- 3ビジネス要件・システム要件業務として何が要り、システムに何を任せるか
- 4機能・非機能要件と選定条件をそろえて、製品を比べる
- 5予算と導入後の確認社内の承認を得て、効果を確かめる
当社による整理です。
なぜ、ツールを選ぶ前に書き出すのですか
目的があいまいなまま製品を比べると、機能の多さや価格の安さで選ぶことになります。すると、社内の承認の場で「それで、何が良くなるのか」と聞かれて答えられず、予算が通りません。運よく導入できても、使われないまま更新の時期を迎えることがあります。
IPA(情報処理推進機構)の「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」も、経営レベルの要求を起点に、業務の観点から要求を集め、それをシステムの要件へと落としていく流れを示しています。出発点は、製品ではなく、ビジネスの目的です。
目的と目標は、どう違いますか
この連載では、目的を「何のためにやるのか」、目標を「どこまで、いつまでにやるのか」と分けて使います。たとえば「問い合わせに早く答えて、お客様を待たせない」が目的、「問い合わせへの最初の返事を、今の平均 2日から、来年 3月までに 1日以内にする」が目標です。
目標を書くときは、SMART と呼ばれる考え方が役に立ちます。Doran(1981年)が示したもので、具体的か、測れるか、担当が決まっているか、現実的か、期限があるか、の 5つを確かめます。
- S具体的かどの業務の、何を良くするのかが分かる
- M測れるか数字や件数で、達成したかが分かる
- A担当が決まっているか誰が責任を持つのかが分かる
- R現実的か人と予算と期間で、届く見込みがある
- T期限があるかいつまでに、が書いてある
Doran(1981年)の 5つの観点を、当社の言葉にしました。
今の姿は、どう書き出しますか
目標と比べるために、今の姿(現状)を数字と言葉で書き出します。完璧な調査は要りません。担当者に話を聞き、1週間ほどの件数や時間を数えるだけでも、話の土台になります。
- 業務の流れ:誰が、何をきっかけに、どの順で、何を使って作業しているか。
- 量:1日や 1か月あたりの件数、かかっている時間、関わる人数。
- 困りごと:待ち、やり直し、探しもの、二重入力など、担当者が困っていること。
- 使っている道具:表計算、紙、メール、今のシステム。それぞれの費用と契約の期限。
- 決まりごと:守るべき法令、社内の規程、取引先との約束。
テンプレート:目的・目標シート
次の表を、そのまま書き写して使ってください。記入例は、問い合わせ対応を良くしたい場合です。
| 項目 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 目的 | 何のためにやるのか(1文) | 問い合わせに早く答えて、お客様を待たせない |
| 目標 | どこまで、いつまでに(数字と期限) | 最初の返事を、平均 2日から、来年 3月までに 1日以内に |
| 測り方 | 何で、誰が、いつ測るか | 問い合わせの記録から、毎月、サポート課が集計 |
| 今の姿 | 今の数字と、その測り方 | 最初の返事まで平均 2日(9月の 1か月、412件) |
| 関わる人 | 使う人、決める人、影響を受ける人 | サポート課 6名、営業部、情報システム担当 |
| 守ること | 法令、社内規程、取引先との約束 | 個人情報の扱い、問い合わせの記録の保存期間 |
| 期限と予算の目安 | いつまでに、だいたいいくらまで | 来年 3月までに。年間の費用の上限は未定 |
チェックリスト:第1回を終える前に
- □ 目的を 1文で言える。
- □ 目標に、数字と期限が入っている。
- □ 目標の測り方と、測る人が決まっている。
- □ 今の数字を、少なくとも 1つは測った。
- □ 今の業務の流れを、関わる人に確かめてもらった。
- □ 守るべき法令や社内規程を書き出した。
- □ まだ、製品の名前を書いていない。
最後の項目は、わざと入れています。この段階で製品の名前が出ると、その製品に合わせて目的を書いてしまいがちだからです。
このコラムで言えないこと
- ここで示した流れとテンプレートは、当社による整理です。会社の規模や業種、社内の決まりに合わせて変えてください。
- 記入例の数字は、説明のための例で、実在の会社の数字ではありません。
連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」
- 第1回 目的・目標と、今の姿を書き出す(この回)
- 第2回 改善点を洗い出し、順番を決める
- 第3回 ビジネス要件とシステム要件を書く
- 第4回 機能要件・非機能要件で、製品を選ぶ
- 第5回 予算を通し、導入後に確かめる
一緒に、整理してみませんか
書き出してみて手が止まったところが、相談のしどころです。お手元のメモのままで構いません。目的の整理から、一緒に考えます。
関連するページ
- 第2回 改善点を洗い出し、順番を決める:次の回
- 課題を相談する:目的の整理から、一緒に考えます
出典
- 要件定義の進め方(ビジネス要求定義とシステム化要求定義):IPA(情報処理推進機構)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」(2019年)(別のタブで開きます)
- SMART の考え方:Doran, G. T.「There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives」Management Review, 70(11), 35–36(1981年)(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1この連載での「目標」の説明として、合っているのはどれですか。
目的は「何のために」、目標は「どこまで、いつまでに」です。製品は、目的と目標を決めたあとに選びます。
問い 2SMART の「T」は、何を確かめますか。
T は Time-related。いつまでに達成するのかが書いてあるかを確かめます。
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読んだ内容を、自社の状況に当てはめたいときは、いまの状況と課題をお知らせください。製品が決まっていなくても、相談できます。大学との共同研究と、教材や文書づくりの支援で得た知見をもとに、進め方を一緒に整理します。
