同じ内容でも、紙で読むと分かりにくいのに、動画で見ると「あ、そういうことか」と分かることがあります。反対に、動画を見たのに、あとで何も思い出せないこともあります。
このコラムでは、動画が運べる情報と、人の理解のしかたの関係を、研究をもとにやさしく整理します。紙や PDF との違い、字幕をつけた場合、問いや選択肢をつけた場合にも触れます。
動画は、一度に何を運べますか
紙や PDF が運べるのは、文字と、止まった図や写真です。動画は、それに加えて、動き、声、間(ま)を運べます。手の動かし方や、機械の部品が動く順番は、文字で書くより、見せたほうが早く伝わることがあります。
紙や PDF
文字と、止まった図。自分の速さで読み、行き来できる
- 深く読む
- 探して読み返す
- 書き込む
動画
動き、声、文字、間。決まった順番で流れる
- 動きや手順を見せる
- 声で気持ちや強弱を伝える
- 見る人の速さには合いにくい
当社による整理です。
情報量が多いほど、伝わりますか
そうとは限りません。人が一度に受け止められる量には、限りがあります。教育心理学者のリチャード・メイヤーは、学びやすいマルチメディアの教材の作り方を、研究をもとにした原則としてまとめています。
- 言葉と絵(図や映像)を組み合わせると、言葉だけより学びやすい(マルチメディアの原則)。
- 説明の声に、同じ文章をそのまま画面にも重ねると、かえって学びにくいことがある(冗長の原則)。
- 区切りを入れ、見る人の速さで進められると、学びやすい(区切りの原則)。
つまり、大切なのは情報の量より、受け取りやすい形です。映像と声を組み合わせ、詰め込みすぎず、区切って届けることが、理解につながります。
紙と画面で読むと、理解は変わりますか
2000年から2017年に発表された 54 の研究(参加者 171,055人)をまとめたメタ分析(Delgado ほか、2018年)では、同じ文章を紙で読んだほうが、画面で読むより理解の成績がやや高い結果でした(効果量 g = -0.21。マイナスは紙が有利)。
差は、時間の限られた読み方と、説明的な文章で大きく、物語の文章では差が見られませんでした。PDF のマニュアルを画面で急いで読むと、内容が頭に残りにくいことがある、と考えられます。
ただし、これは文章を紙で読むか画面で読むかの比較で、動画との比較ではありません。紙の強みは、自分の速さで、行き来しながら深く読めることです。
動きを見せると、何が変わりますか
動きのある説明(アニメーションや動画)と、止まった絵を比べた 26 の研究(76 の比較)をまとめたメタ分析(Höffler と Leutner、2007年)では、全体として動きのある説明のほうが学習の成績が高く(効果量 d = 0.37)、とくに手や体の動かし方を身につける内容(d = 1.06)や、本物に近い動画(d = 0.76)で差が大きい結果でした。
機械の操作、検査の手順、道具の使い方のように、動きそのものが内容になっているときは、動画の強みがはっきり出ます。
動画は、学習を助けますか
大学生を対象にした無作為化の試験 105件(学生 7,776人)をまとめたレビュー(Noetel ほか、2021年)では、それまでの教え方を動画に置き換えると小さな向上(g = 0.28)、それまでの教え方に動画を足すと大きな向上(g = 0.80)でした。動画は、今の教え方を置き換えるより、補うときに力を発揮しやすいと言えます。
字幕をつけると、どうなりますか
字幕は、耳の聞こえにくい人のためだけのものではありません。100 を超える研究を整理した論文(Gernsbacher、2015年)は、字幕が、動画の内容の理解、注意、記憶を助けると報告しています。子どもから大人まで、とくに母語ではない言葉で見る人や、読むことを学んでいる人で効果が見られます。
一方で、上の「冗長の原則」のように、声と同じ長い文章を画面に重ねると、映像を見る妨げになることもあります。字幕は表示を選べるようにする、図の大事な部分には短い言葉だけを添える、といった工夫が役に立ちます。自動でつけた字幕は、誤りがないか確かめましょう。字幕の用意のしかたは、「動画の字幕は、何を用意しますか」で解説しています。
問いや選択肢をつけると、どうなりますか
21分の講義の動画を4つに区切り、区切りごとに小さなテストを挟んだ実験(Szpunar ほか、2013年)では、講義の間に注意がそれたと答えた人の割合が、テストを挟んだ群で 19% でした。内容をもう一度見た群は 39%、何もしなかった群は 41% で、最後のテストの成績も、テストを挟んだ群が高い結果でした。
問いや課題を組み込んだ動画を、ふつうの動画と比べた研究をまとめた分析(Ploetzner、2024年。16 の論文の 17 の研究)でも、全体として学習によい効果(g = 0.522)が報告されています。ただし、効果が出なかった実験もあり、問いの作り方や出す場面で結果は変わります。くわしくは「動画の途中に問いを入れると、学習は変わりますか」をご覧ください。
選択肢で見る順番を選べるようにすると、見る人は自分に必要なところから見られます。見るだけの動画を、自分で考えて選ぶ動画に変えることが、理解の手がかりになります。
結局、どう使い分ければよいですか
- 1深く読む内容は、紙や PDF で規程、仕様、細かい数字。自分の速さで読み返せるように
- 2動きと手順は、動画で操作、作業の流れ、道具の使い方
- 3字幕は、選べるように音を出せない場所、母語ではない人にも届く
- 4区切って、問いかける見るだけで終わらせず、わかったかを確かめる
当社による整理です。本文で紹介した研究をもとにしています。
このコラムで言えないこと
- 紹介した研究の多くは、大学生などを対象にした実験です。企業の研修や説明会に、そのまま当てはまるとは言えません。
- 効果量は、比べている相手や測り方が研究ごとに違うため、数字どうしを並べて比べるものではありません。
- 「動画は文字の何倍も情報を運ぶ」といった数字は、出典を確かめられないため、このコラムでは使っていません。
一緒に、伝わる形を考えませんか
紙や PDF をやめる必要はありません。深く読む資料はそのままに、動きと手順を動画に、確かめたいところには問いを。Sylavids では資料から説明の動画をつくり、hihaho では動画に問いや選択肢を重ねられます。お手元の資料のどこを動画にすると伝わりやすいか、一緒に考えます。
関連するページ
- 動画の途中に問いを入れると、学習は変わりますか:問いの効果の研究を、くわしく
- インタラクティブ動画は、ふつうの動画と何が違いますか:操作、問い、残る記録
- 動画の字幕は、何を用意しますか:WebVTT、SRT と、WCAG の達成基準
出典
- マルチメディアの原則などMayer「Applying the science of learning: Evidence-based principles for the design of multimedia instruction」American Psychologist 63(8): 760–769(2008年)(別のタブで開きます)
- 原則の要約(上の論文を出典として紹介)NUS Medicine: Mayer’s 12 Principles of Multimedia Instruction(別のタブで開きます)
- 紙と画面の読み比べDelgado, Vargas, Ackerman, Salmerón「Don’t throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension」Educational Research Review(2018年。著者による原稿)(別のタブで開きます)
- 動きのある説明と止まった絵Höffler, Leutner「Instructional animation versus static pictures: A meta-analysis」Learning and Instruction 17(6): 722–738(2007年)(別のタブで開きます)
- 大学での動画の効果Noetel ほか「Video Improves Learning in Higher Education: A Systematic Review」Review of Educational Research(2021年)(別のタブで開きます)
- 字幕の効果Gernsbacher「Video Captions Benefit Everyone」Policy Insights from the Behavioral and Brain Sciences 2(1): 195–202(2015年)(別のタブで開きます)
- 区切りごとのテストSzpunar, Khan, Schacter「Interpolated memory tests reduce mind wandering and improve learning of online lectures」PNAS 110(16): 6313–6317(2013年)(別のタブで開きます)
- 問いを組み込んだ動画のまとめPloetzner「The Effectiveness of Enhanced Interaction Features in Educational Videos: A Meta-Analysis」Interactive Learning Environments 32(5): 1597–1612(抄録)(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1紙と画面で文章を読み比べた研究のまとめでは、どんな結果でしたか。
54 の研究のメタ分析では、紙のほうがやや有利で、時間の限られた読み方と説明的な文章で差が大きくなりました。物語の文章では差が見られませんでした。
問い 2動きのある説明が、止まった絵より特に効果が大きかったのは、どんな内容ですか。
Höffler と Leutner のメタ分析では、手や体の動かし方を身につける内容で差が大きく(d = 1.06)なりました。
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