製品の候補が絞れたら、予算の説明です。「予算が取れない」の多くは、説明が製品の紹介になっていて、何がどれだけ良くなるのかが伝わっていないことから起きます。第1回から第4回で書いたものがあれば、説明の材料はほぼそろっています。
費用は、3つに分けて見積もる
見積書の金額だけを並べると、導入してから足りない費用が出てきます。費用は、はじめにかかるもの、毎年かかるもの、社内の手間の 3つに分けて、3年から 5年の合計で見ます。
はじめにかかる費用
- 初期設定、データの移行
- 社内の仕組みとの連携
- 研修と、説明の資料づくり
毎年かかる費用
- 利用料、保守費
- 利用者が増えたときの追加
- 契約の更新
社内の手間
- 担当者が準備にかける時間
- 運用、問い合わせへの対応
- 見落としやすいので、時間で見積もる
当社による整理です。
効果は、目標の数字で示す
効果は、第1回の目標と、第2回の改善点を使って書きます。「便利になる」ではなく、「最初の返事が平均 2日から 1日以内になる」「答えを探す時間が 1件あたり 20分から 5分になり、月に約 100時間を別の仕事に使える」のように、数字と、その数字の出し方を示します。
お金に換えにくい効果(お客様の満足、担当者の負担の軽さ、決まりを守れることなど)も、捨てずに書きます。ただし、数字の効果と分けて書き、見積りの根拠がないものを金額にしないようにします。
補助金も、確かめる
中小企業・小規模事業者などには、IT ツールの導入を支える国の補助金があります。これまで「IT 導入補助金」と呼ばれていたもので、中小企業庁の資料では、2026年は「デジタル化・AI導入補助金2026」です。対象、枠、補助の割合、申請の時期は年度ごとに変わるので、最新の公募要領で確かめてください。
テンプレート:予算の説明(1枚)
社内の承認の場では、次の順で 1枚にまとめます。上から読むと、なぜ・何を・いくらで・どうなるか、が分かる順番です。
| 順番 | 書くこと | どこから持ってくるか |
|---|---|---|
| 1. 目的と目標 | 何のために、どこまで、いつまでに | 第1回の目的・目標シート |
| 2. 今の姿と、差 | 今の数字と、目標との差 | 第1回の今の姿 |
| 3. 原因と打ち手 | 差を生む原因と、IT 以外も含めた打ち手 | 第2回の課題一覧 |
| 4. 要件 | 業務として要ることと、システムに任せること(主なもの 3つほど) | 第3回の要件シート |
| 5. 選んだ製品と理由 | 比べた候補、必須の要件を満たすか、選んだ理由 | 第4回の評価表 |
| 6. 費用 | はじめ・毎年・社内の手間。3年から 5年の合計 | 見積書と、社内の時間の見積り |
| 7. 効果 | 目標の数字で。数字の出し方も | 第1回の目標と第2回の改善点 |
| 8. リスクと対策 | うまくいかない場合と、その備え。やめるときのデータの扱い | 第4回の確認の項目 |
| 9. 進め方と確かめ方 | いつ、誰が、何を測って、効果を確かめるか | この回の後半 |
導入したあとに、確かめる
導入はゴールではありません。第1回で決めた測り方で、目標に届いたかを確かめます。小さく始めて、効果を確かめてから広げると、次の予算も説明しやすくなります。
- 小さく始める1つの部署や業務で試す
- 測る第1回の測り方で、導入前と比べる
- 聞く使う人の困りごとを集める
- 直して広げる設定や手順を直し、範囲を広げる
当社による整理です。
チェックリスト:予算の説明と導入後
- □ 費用を、はじめ・毎年・社内の手間に分け、3年から 5年の合計を出した。
- □ 効果を、目標の数字と、その出し方で書いた。
- □ 数字にできない効果は、数字の効果と分けて書いた。
- □ 補助金の対象になるかを、最新の公募要領で確かめた。
- □ うまくいかない場合と、やめるときのデータの扱いを書いた。
- □ 導入後に、誰が、いつ、何を測るかを決めた。
- □ 最初は小さな範囲で始める計画にした。
連載のふりかえり
5回を通して書いてきたのは、目的・目標シート、課題一覧、要件シート、製品の評価表、予算の説明の 5つです。どれも、前の回のものを材料にしています。順にたどれば、「何を選べばよいか分からない」「予算が取れない」というつまずきの多くは、手前で防げます。
このコラムで言えないこと
- 記入例の数字は、説明のための例です。効果を約束するものではありません。
- 補助金の名前と枠は、中小企業庁の資料(2026年4月)によります。申請の条件や時期は、必ず最新の公募要領で確かめてください。
- 社内の承認の手続きや書式は、会社ごとに違います。テンプレートは、社内の書式に合わせて変えてください。
連載「ビジネスの目標を達成するための IT 導入」
- 第1回 目的・目標と、今の姿を書き出す
- 第2回 改善点を洗い出し、順番を決める
- 第3回 ビジネス要件とシステム要件を書く
- 第4回 機能要件・非機能要件で、製品を選ぶ
- 第5回 予算を通し、導入後に確かめる(この回)
一緒に、整理してみませんか
書き出してみて手が止まったところが、相談のしどころです。お手元のメモのままで構いません。目的の整理から、一緒に考えます。
関連するページ
- 第4回 機能要件・非機能要件で、製品を選ぶ:前の回
- 課題を相談する:目的の整理から、一緒に考えます
出典
- 要件定義の進め方(ビジネス要求定義とシステム化要求定義):IPA(情報処理推進機構)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」(2019年)(別のタブで開きます)
- IT ツールの導入の補助金:中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026」の概要(PDF、2026年4月)(別のタブで開きます)
確かめる
この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。
問い 1費用を見積もるとき、見落としやすいものはどれですか。
社内の手間は見積書に出てこないため、見落としがちです。時間で見積もって、費用に含めます。
問い 2導入後に効果を確かめるとき、使うものはどれですか。
第1回で決めた測り方で、導入前と比べます。だから、測り方は最初に決めておきます。
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課題を相談する
読んだ内容を、自社の状況に当てはめたいときは、いまの状況と課題をお知らせください。製品が決まっていなくても、相談できます。大学との共同研究と、教材や文書づくりの支援で得た知見をもとに、進め方を一緒に整理します。
