AI で動画をつくるときに確かめることは、大きく4つあります。人の声と姿の権利、著作権、AI でつくったことの表示、内容の正しさです。

このコラムは、判例や公的な文書が書いていることの紹介で、法的な助言ではありません。

図つくる前と公開の前に確かめる4つの点
  1. 1声と姿の権利肖像権とパブリシティ権の考え方を確かめる
  2. 2著作権類似性と依拠性、著作物に当たるか
  3. 3AI でつくったことの表示開示、機械で読み取れる印、来歴の情報
  4. 4内容の正しさ字幕、訳文、音声を人が確かめる

当社による整理です。法令の適用の条件と例外は、条文で確かめてください。

AI で動画をつくる技術には、どんな種類がありますか

AI で動画をつくる、または加工する技術は、映像、音声、文字のどれを扱うかで分けられます。

図AI で動画をつくる技術(映像、音声、文字)

映像

姿や場面をつくる

文章や画像から、映像をつくる、変える

  • 動画生成 AI
  • 画像生成 AI
  • AI アバター
  • リップシンク

音声

声をつくる

文章や録音から、話し声をつくる

  • 音声合成(TTS)
  • 音声クローン
  • AI 吹き替え

文字

言葉にする、読み取る

話し声や映像を、文字や説明にする

  • 自動字幕
  • AI 翻訳
  • 動画理解

当社による整理です。AI アバターと AI 吹き替えは、音声合成を組み合わせて使います。

新しくつくる技術の、入力と出力は次のとおりです。

技術入力するもの出てくるもの
動画生成 AI文章、画像動画
画像生成 AI文章の指示、既にある画像画像
音声合成(TTS)文章人が話すような音声
音声クローン特定の人の声の録音その人の声に似た合成音声
AI アバター文章人の姿の映像が合成音声で話す動画

既にある動画や文章を加工する、または読み取る技術の、入力と出力は次のとおりです。

技術入力するもの出てくるもの
AI 吹き替え動画の話し声別の言語の音声
リップシンク人が話している動画、別の音声口の動きを音声に合わせた動画
自動字幕動画の話し声字幕
AI 翻訳ある言語の文章別の言語の文章
動画理解動画の映像と音声説明、場面の区切り、質問への回答

合成メディアとディープフェイクは、何を指しますか

合成メディアは、AI などのアルゴリズムで生成した、または加工した、画像、動画、音声などの総称です。米国の NIST は、文章も含めて、合成コンテンツ(synthetic content)と呼んでいます。

ディープフェイクは、合成メディアより狭い言葉です。EU AI 法 第3条(60) が定義しています。対象は、AI で生成または加工した画像、音声、動画です。そのうち、実在の人、物、場所、団体、出来事に似ていて、本物や真実だと人に誤って思わせるものを指します。AI でつくった動画の全てが、これに当たるわけではありません。

人の声と姿を使う前に、何を確かめますか

人の声と姿を使う前には、肖像権とパブリシティ権の考え方と、使うサービスの利用の条件を確かめます。

日本では、肖像権とパブリシティ権は、どちらも法律に明文の規定がなく、判例で形づくられてきました。パブリシティ権は、氏名や肖像などが持つ、商品の販売などを促す力(顧客吸引力)を、排他的に利用する権利です。

  • 最高裁 平成17年11月10日 判決は、人は、みだりに自分の容ぼうなどを撮影されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を持つとしました。
  • 最高裁 平成24年2月2日 判決は、パブリシティ権を、人格権に由来する権利の一内容としました。氏名や肖像などの無断の使用が、侵害として違法になるのは、肖像などそのものを鑑賞の対象となる商品にする、商品の差別化のために付ける、広告に使うなど、専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合としています。
  • 法務省の検討会の報告書(令和8年8月)は、生成 AI による無断の利用を取り上げ、人の声もパブリシティ権による保護の対象になるとしています。報告書は、裁判例や学説の動向を踏まえて、検討会の検討の結果を整理したものです。

Microsoft は、特定の人の映像や写真からアバターをつくる顧客に、姿を提供する人から、関係する法令に沿った十分な同意を得ることを求めています。声を提供する人については、書面による明示の許可を得ることを求めています。これは1社のサービスの条件で、一般の決まりではありません。

著作権については、何が整理されていますか

文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会は、2024年3月15日に「AI と著作権に関する考え方について」をまとめました。AI の開発・学習の段階と、生成・利用の段階を分けて整理しています。この文書に、法的な拘束力はありません。

開発・学習の段階著作権法 第30条の4 が関係します。著作物に表現された思想や感情を味わうこと(享受)を目的としない利用について、必要と認められる範囲で著作物を利用できると定めています。著作権者の利益を不当に害する場合は、この限りでないとも定めています。「考え方」は、享受の目的が1つでも含まれる場合は、この条の要件を欠くとしています。
生成・利用の段階「考え方」は、著作権の侵害になるには、生成物に、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が必要だとしています。AI の利用者がその著作物を知らなくても、学習に使われていた場合は、通常、依拠性があったと推認されるとしています。
生成物が著作物に当たるか「考え方」は、人の創作意図と創作的寄与で判断するとしています。人が創作的な加筆や修正をした部分は、通常、著作物性が認められるとしています。

AI でつくったことは、どう示しますか

AI でつくったことを示す方法には、開示、機械で読み取れる印、来歴の情報の記録、電子透かしがあります。EU では、EU AI 法 第50条(別のタブで開きます)が、2026年8月2日から適用されています。求める内容は、相手で分かれています。

  • 提供者:2項は、合成の音声、画像、動画、文章を生成する AI システムの提供者に、出力に機械で読み取れる印を付けることを求めています。第111条4項(改正規則 (EU) 2026/1744 で追加)は、2026年8月2日より前に市場に出されたシステムの提供者に、2026年12月2日までに2項に対応することを求めています。
  • 導入者(deployer):自分の権限のもとで AI システムを使う者です。仕事と関係のない個人の利用は除きます。4項は、ディープフェイクに当たる画像、音声、動画について、AI で生成または加工したものだと開示することを求めています。4項は、例外も定めています。

C2PA は、デジタルコンテンツの出どころと編集の履歴(来歴)を記録して確かめるための、公開の技術仕様をつくる団体です。2026年10月時点で、仕様の現行の版は 2.4(2026年4月)です。

コンテンツに付ける来歴の情報を、コンテンツクレデンシャル(Content Credentials)と呼びます。作成や編集についての記述をまとめ、X.509 という形式の証明書による電子署名を付けたものです。改ざんがあれば、検証で分かります。

電子透かしは、コンテンツに情報を埋め込む技術です。米国の NIST の文書 NIST AI 100-4(2024年11月)は、透かしを2つに分けています。人が見たり聞いたりして分かる透かしと、人には分かりにくく、機械で読み取る透かしです。

内容の正しさは、どう確かめますか

AI がつくった字幕、訳文、音声は、公開の前に人が確かめます。生成 AI は、自信のある書き方で誤った内容を出力することがあります。

  • 自動字幕:W3C は、自動でつくった字幕は、正確だと確かめない限り、利用者の必要もアクセシビリティの要件も満たさないと説明しています。出発点として使えるともしています。
  • AI 翻訳:機械翻訳の出力を人が確認して直す作業を、ポストエディットと呼びます。ISO 18587:2017 が、人による完全なポストエディットの工程と、作業者の力量についての要求事項を定めています。
  • AI 吹き替え:訳した内容を人が確認して直すしくみを用意しているサービスがあります。

言い切れないこと、注意することは何ですか

  • コンテンツクレデンシャルが付いていれば本物、付いていなければ偽物、とは言えません。C2PA の仕様は、来歴のデータの良し悪しは判断しないとしています。
  • 来歴の情報は、コンテンツから切り離されることがあります。
  • 電子透かしがあれば見分けられる、とも言い切れません。NIST は、どの技術も、単独では包括的な解決にならないと述べています。
  • 紹介した判例と報告書が扱っているのは、無断の利用です。同意の取り方や範囲は、扱っていません。
  • AI がつくったものに著作権がある、とも、無い、とも言い切れません。AI がつくったから侵害にならない、とも言えません。
  • EU AI 法が自社に当てはまるかどうかは、このコラムでは扱っていません。
  • 個別の利用が権利の侵害に当たるかは、事案ごとの判断になります。

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出典

確かめる

この記事の内容から、2 問です。選ぶと、その場で答えと説明が出ます。

問い 1C2PA のコンテンツクレデンシャルは、何を記録しますか。

問い 2機械翻訳の出力を、人が確認して直す作業を、何と呼びますか。

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